女らしく【16】『思いと想いと告白』-2
「…俺からでいいか?」
「ああ…」
そういうと稲荷は昔話を始めた。
昔、愛した女性…
自分に名を与え、式として過ごした過去…
そして…病の床での別れ…
彩という最愛の人との別れ…
…哀しい…昔話…
「俺はマコトに会ったとき彩だと思った…またヒトを愛せると思った…」
稲荷は迷いのない澄んだ声で言った。
「でも…オレは…その彩さんじゃない…オレは彩さんにはなれないよ…」
「分かってる…それでもオレはマコトが好きなんだ。俺の勝手だとは十分承知だ…でも俺はマコトと生きていきたい」
稲荷は穏やかな表情のままだった。
「稲荷の気持ちはよく分かった…けど…」
フッと肌寒い風が吹いていった…
「稲荷のことは嫌いじゃないよ…好きだよ…
けど、それ以上にオレは大和が好きなんだ…だから…だから…」
稲荷はゆっくりとこっちを見た。
「なあ…マコト…もし俺がもっと早くに…
九条の野郎よりも早くにマコトに出会っていたのなら…マコトは俺に惚れてくれたか…」
その問いにオレは答えられなかった…
「稲荷…こんなこと言ったら稲荷に悪いかもしれない…でも…オレはこの後大和に告白しようと思う。
オレ、大和のことが好きだから…」
稲荷はまたゆっくりと正面を向いた。
「ごめんなさい…」
「……分かった…俺の方こそ悪かった…」
ほんの2・3分、沈黙が流れた。
「けど…俺はマコトのことが好きだ…お前を守っていきたい…」
稲荷はまるで自分に言い聞かせるかの様に呟いた…
「ごめん…オレ…帰るよ…稲荷は…」
「…もうしばらく一人にさせてほしい…」
「…分かった…」
オレは立上がり、稲荷に背を向け、立ち去った。
「…結局…俺は彩に囚われてたのかな…」
一人残った稲荷はベンチの上でポツリと呟いた。
「なあ、彩…今の俺は情けないか?こんな俺を見て、私の言ったことを覚えてないのか!…とか怒るか?」
フワリと金の髪が風に靡いた。
「彩…正直、辛えよ…
それでも俺は生きていかなきゃならねえのか?」
稲荷は込み上げる寂寥感と涙を堪えながら一人、夕暮れの中で呟いていた。
「彩…会いに行きてえ…」
彩に語る様に…
自分に言い聞かせる様に…
「…ふっ…それこそお前に怒られるな…」
シニカルに微笑すると稲荷は立上がり、学園へと歩いていった。もうマコトの姿は見えない。
「…こんなことで死んだら…お前に会わす顔がないもんな…」
少しずつ太陽は沈んでいく…世界を夜に変えながら…