川本真琴より『1/2』-1
私と君は幼馴染み。同じ時間を共有して、そして時を重ねて。
ずっとこの気持ちは幼馴染みだからって、思ってた。この「好き」は違うって。
だけど、間違いだった。
そう、君が教えてくれた。
君は同級生の男の子達と比べても、ちょっと頼りなくて、線も細いし、強く言われると従っちゃう、そんな男の子。
幼い頃から私が守ってあげてたのに、高校に入った辺りから「女の子」扱いをする。
「だって、好きなんだ」
そう君が言ったのが、約三か月前。
朗らかな笑顔、馬鹿みたいに優し過ぎる、君。
始めは本気にして無かったけど、だんだん解ってきた。
君の後ろ姿や、いつの間にか大きくなった手を意識しだす私に。心臓が苦しくて、側に寄るだけで体温が上がる。
…恋。ってヤツを。
同じ学校だから、毎朝毎夕、君の自転車で登校してる。もちろん荷台に横座り。
ちょっと細身の君だけど、やっぱり男の子。嫌な顔しないでスイスイ漕ぐんだ。
真夏の太陽は容赦無く、私達の身体をジリジリ焼く。何もして無いのに吹き出る汗で皮膚はじっとり湿っている。だけど、自転車が風を切って走るから、涼しい風が素肌と制服の隙間を縫って走っていく。
…って言うのは私だけかな?君は一生懸命漕いでるから、お腹にまわした私の手が熱いもの。
見上げると首筋に汗が滴ってる。ワイシャツも汗を染み込んで半透明になってる。
暑い……ううん、熱い。
未だに伝えてない「好き」って気持ちが溢れて熱い。
ぺたっ…て君の背中に顔をくっつける。汗で濡れたワイシャツがヒンヤリ冷たい。
「どうしたの?」
笑いながら君は尋ねる。私は風で聞こえなかったふりをして、ぺったりくっついた。暑いよ、なんて聞きたくないもの。
何も言わなかったら、お腹にまわした手に温かい物が重なった。
君の手だった。
決して大きい部類では無いけど、ぎゅっと私の手に重ねてくれてるだけで、不意に涙が出そうになる。
こういう言葉じゃない優しさが大好き。
大好き…。好き過ぎておかしくなっちゃうよ。
君の背中に耳を寄せる。心臓の音が心地よい。ぎゅっ、とまわした手に力を入れると、君の手が、ぽんぽん…とあやしてくれた。
不安な心を見透かされたみたい。
このまま…くっついたまま、溶けてしまいたい。
君とヒトツになりたい。
身体なんて邪魔。
…そう、この気持ちは恋。
君を好き…。そう言いたい。…言いたい。
だけど君は優しいから、ゆっくり考えてって牽制するの。
私、君を想うだけで、こんなにも身体が千切れてしまいそうな痛みを感じるのに。
好きって何度でも言いたいのに。私と君の二人だけの世界が欲しいんだ。
小さくていい、狭くていい。二人だけの世界でもっと、もっと…ひっついていたいの。
そんな事を考えてる私って、清純じゃないよね。