川本真琴より『1/2』-3
「橙が零れる様な空ね」
ふと、夕焼けを見ながら私は呟いた。不意に嬉しさと悲しさが込み上げて来る。
「ずっとこの一瞬が続けば良いのに」
そう呟くと、温かい手が私の頭を撫でた。
「馬鹿だなぁ。これからも一緒なんだよ。明日も明後日もずっと一緒なんだから」
くしゃくしゃと撫でて、また歩み始める君。
チキチキチキ…と自転車のチェーンの音が耳をつく。自転車のハンドルを握る手が夕日を浴びている。
いつの間にか逞しくなってしまった君。
ずっと守ってあげたい。君を守るんだって、男の子になりたかった。
だけど今は違う。
守るんじゃない、君を包み込む強さが欲しい。
……なんだろ。私、ちっちゃな頃と同じ。馬鹿みたいに純粋だった頃と同じ。
変ね、涙…零れてしまう。
「ねえ、どうして」
私は涙を悟られ無い様に呟いた。
「私達どうして半分なんだろう。私達、なんで一つに生まれて来なかったの?」
こんなに好きなら一つになりたい。体も心も解け合って。
「……また急に、ンな事言って」
笑いながらも君はちゃんと考えてくれる。
「ん…そうだな」
そう言って君は自転車を制止させた。
もう、私の家の前。
「……恋、出来る様にじゃないか?」
明後日の方を向いて君がポツンと言った。
夕焼けで解り辛いけど君が照れているのは確か。
「ねえ」
私はゆっくり君とのまわいを詰める。
最後の一歩の距離はグッて抱いてね。
何も言わないでも解ってね。
ほら、太陽が沈まないうちに…………
私達はいつものように夕陽を見てる。
きれいな夕陽。
だけど何かが足りない。
私、まだ君に言い足りないんだよ。
そんな全部解った顔しないで。
ああ、私、なんでこんなに我儘になったんだろう。
側に居れたら良かったのに、それが叶ったら、好きって言いたくなって、キスしたくなって、それで、それで…
ねえ、ひとつになろうよ。
もうすぐ地球が滅んでしまうかも知れないんだよ。
明日なんて解らない。
だけど、この星が爆発する日はひとつになりたい。
離れ離れになら無い様に。
消えて無くなるその瞬間の、怖さも、寂しさも、苦しさも、痛みも…全部、全部、君となら乗り越えられる。