川本真琴より『1/2』-2
風をきりながら走る自転車。君がペダルを漕ぐ度に景色が通り過ぎていく。黄色のヒマワリはお辞儀をしてるみたいね。
このまま、ぐんぐん漕いだら、空の彼方まで飛んでいけそうじゃない?二人だけの世界に飛んでいけそうだよ。
こんなに、しがみついたのなんて初めて。今迄「幼馴染み」だった君が「男」だってよく解る。
君はきっとビックリしてるよね。こんなにくっつくなんて幼い頃以来だよね。
ははっ…でも、私の方が自分でもビックリだよ。
この行動力。ひっつきたい一心で、さ。君に対する返事すらしてないのに。
でも、君の体温を感じてると強くなれそうな気がする。
ううん、強くなりたい。
君に思いを伝えられる強さが欲しい。
君の鼓動、私の鼓動。重なって、またずれて、リズムを刻んで、また重なる。
私達、今、鼓動が重なってるよ?
キキーーッ、とブレーキの音が耳をつく。
交差点に差し掛かったから一端停止したんだ。
納得すると、私は車が通り過ぎるのをひたすら待っている、君の後ろから飛び下りた。
キスしたい。
見詰め合ってさ。
指を絡ませてさ。
神様は何も禁止なんてして無いんだよ!
溢れてしまいそうな私の「愛してる」が、胸につっかえて痛みを放ってる。
伝えたい…。
今、言わないと…!
私は大きく息を吸い込み、震える喉を黙らせて唇を開いた。
「………好き…」
風の音でかすれてしまった私の小さな声。小さな…一世一代の告白。
まばたきを繰り返す君。
信号はすでに青に変わっていて、車道を走る車の排気ガスが鼻につく。
「…うん。僕も好き」
離れた所から聞こえたみたいに、理解するまで少し時間が掛かった。
私の気持ち、君の気持ちが、今、一つだって………
「……私、凄く好き。本当に、本当に…」
壊れたデッキみたいに私は言葉を繰り返した。
涙が後から後からこぼれてしまう。
自分の気持ちを全て言葉に出来なくて、歯痒く苦しい、こんな気持ち。
もっと表現したくて、私は悲しくなる。
私、君の事どれだけ好きなのか教えたくて、見せたくて、パンクしちゃいそうだよ。
こんな気持ち、きっと大人になったら忘れてしまうんだろうな。
「馬鹿だなぁ。なんで泣くんだよ」
君はそう言いながら、ポッケに手を入れてハンカチを探している。
ううん、違う。
私の欲しいのはハンカチじゃないんだよ。
ねえ、気付いて?
ほら、そっぽ向いて待ってるから。
君のポッケで迷ってるその手でほっぺに触れてよ。
私の涙を止める魔法は、君の唇だけが知ってるんだよ――――
君の腕に手を絡め、私達はゆっくりと歩いていた。
なるべく遠回りをしながら、ゆっくりと歩く。