母×野菜炒め>太陽-3
「ご馳走様でした……」
結局ご馳走様と言う、素直な僕。
「はい、お粗末様でした」
にこやかに答える母。笑顔に対して殺意を抱くとはこういうことだな。
「ところで母さん、これ味見してみたの?」
「え、どうして貴方が食べるものを、私が味見しなきゃいけないの? それに車のボンネットで炒めた野菜なんて、汚いじゃない?」
お母さん。お母さんは僕のことを一体なんだと思っていらっしゃるのですか?
「それに味見したけど、普通に美味しかったわよ。ちょっと味薄かったけど。それじゃ、私は台所で料理してるから、何かあったら呼んでね」
と、母は世紀末覇者の如く、エプロンを翻し部屋を出て行った。
母の言葉に僕はしばし呆然としてしまい、根本的におかしい部分にツッコミを入れることができなかった。なので、母が出て行った後の、この閉鎖的且つ絶対的空間(推定気温16℃)で叫んでみようと思う。
「最初から台所で料理しろや、このボケェーーー!!」
――。
その夜に僕がトイレに篭りっぱなしだったことは言うまでも無いことなので、詳しくは書かない。というか、男が真夏の熱帯夜にトイレに入って、下腹部を押さえながら腹筋に力をこめ、脂汗を掻いている様子なぞ誰も想像したくないだろうから書かない。って描写しちゃったじゃないですか!
とにかく、その日の夜は野菜炒めの見事な波状攻撃により、すごく苦しんだわけだ、僕の大腸が。
そして一晩中続く痛みに耐えながら僕はある決心をした。
「絶対に一人暮らしをしよう、食中毒を起こす前に」
それは僕が自立というものを初めて意識した瞬間でもあった。もう少しまともな理由で意識したかったけれど。
その後父と母にそのことを言ってみたのだけれども、僕の考えを中々理解してくれない父と母との可笑しな問答により、僕は結局一日を無駄にしてしまうのだが――それはまた別のお話。
めでたし、めでたし。