羨望の眼差し-3
「いえ、俺……昼は元々、あまり食べなくて」
「そうなの。夜寝られてる?最近、デスクで寝てるでしょう」
コピーが終わったらしい加奈子が、束を取り上げ、コピー機の上でトントンと用紙を揃えたあと、和臣のもとへやってくる。
和臣の右側から、甘いが清潔感のある香りがふわり、と感じられた。
「あ……寝てます。大丈夫…です」
細身の体をぎゅっとちぢこませて、和臣は加奈子の方を見ることができなかった。
「それならいいんだけど。お昼も食べられそうなら食べなきゃダメよ?あたしもカップ麺ばっかりだから人のこと言えないんだけど」
クスッと笑った声がして、背中をぽんぽん、と手のひらで軽く叩かれた。
何気ないその行為に、じわっと背中が熱を持つ。
(嘘だろ)
たった、それだけの行為にどくんとぺニスに血液が集中した気がした。
和臣は下唇を噛んで、思わず印刷した紙を握ってしまいそうになった。
いても立ってもいられなくなり、コピー室を飛び出す。
自分のデスクに乱暴に紙を置いて、トイレへと駆け込んだ。
個室に入り、スラックスと下着を同時に下ろすと、半ば固くなりかけているそれが現れる。
たったあれだけのことで、和臣は加奈子に欲情してしまっていた。
その日は仕事に集中出来ず、現在時刻は十九時半を回ろうとしているが、オフィスには和臣ひとりになっていた。
今日は金曜日で、おそらく飲みに行く者も多いのだろう。
はぁ、とため息をついて、猫背になりながらパソコンに向かっていると、オフィスの入口のドアが開く。
ーー加奈子だった。
服装は昼間と同じく、Vネックの半袖の白いカットソーに、ハイウエストのグレーのスーツ生地のズボンを履いているが、髪を下ろしている。
和臣の姿に気づくと、コンビニの袋を持った加奈子が近づいてきた。
「お疲れ様。鮭と梅とツナだったら、おにぎりはどれがいいですか」
「え?」
顔を上げるとにこっと笑う加奈子の顔。
「息子にご飯の用意だけして、ちょっとやらなきゃいけないことあって戻ってきたの。自分の分のおにぎり買ってきたけど、ひとつあげるよ。お昼食べてないんでしょう?」
「え、あ……いいんですか」
「いいよ」
「じゃあ……ツナ」
加奈子は笑って、コンビニの袋からツナのおにぎりを取り出して和臣のデスクに置く。
すると、デスクから和臣の空のマグカップを手に取り、「お茶いれてきたげる。冷たいのとあったかいの、どっち?」と聞いた。
「あ、いや……そんな」
「いいわよ」
「じゃ、じゃあ……冷たいのでお願いします」
和臣がそう言うと、加奈子は給湯室へ向かってお茶を注ぎ、デスクの上に置いた。
加奈子は、和臣の隣の席に座ると「休憩した方がいいよ」と言って笑う。
コンビニの袋から蓋のついたコーヒーを取り出して、ひとくち飲んで、髪をかきあげる。
普段とは違う何となくオフモードの加奈子に、思わず和臣はときめいた。