第十一章 母の携帯電話-1
第十一章 母の携帯電話
「あったぁ・・・」
薄闇の中でそれを手にした時、少女は小さく歓声をあげた。
ウォークインクローゼット奥の棚に並べられた幾つかのハンドバックを探していくうちに、ようやく見つけたのだった。
電源を入れると、暗い画面に光がともり、少女の顔を明るく照らした。
ハッとした圭子は胸で隠すようにして、左右を見回す。
自分が忍び込んできた入り口と反対側の扉は曇ガラスになっていて、両親の寝室の様子がうかがえるのだが、誰も起きている気配は無い。
「うっ・・・」
恐る恐る画面を覗き込んだ時、危うく叫び出しそうになった。
母の顔がアップで映しだされたからだ。
(こ、こん・・・・な・・・)
その陶酔した表情は何とも幸せそうで、白い歯がこぼれている。
ゴクリと喉が鳴った。
いきなり、待ちうけ画面に映像が入力されていた事に驚いたが、嫌がっている様子を予想していただけに意外だった。
だがそれだけに、これから知る事になる携帯電話に隠されている母の秘密を想像すると、どんなに衝撃的だろうかと身震いするのであった。
ソッと画面を閉じると、携帯電話を握り締めたまま廊下に出た。
自分の部屋に戻ると、ドアを閉める前にもう一度辺りの様子を伺ってからカギをかけた。