第十一章 母の携帯電話-5
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「はぁ・・・・」
何度目かのため息が深夜の部屋に、こぼれた。
圭子は決心するように携帯電話を開いた。
画面が明るくなり、母の映像が浮かんだ。
「ママ・・・・」
その嬉しそうな顔に呟きながら、少女は気持ちを整理させている。
何度悔やんだところで、忌まわしい事実が消えてくれるわけでもない。
もう涙はかれるほど泣きつくしたような気がする。
あの時、着信したメールの振動音で我に返った圭子は、這うように家を出た。
親友から返信されたメールは少女を気遣う文章で埋められていたが、読む気にはなれなかった。
何時間も街をさ迷った後、家にたどり着いた圭子は玄関に男の靴が消えているのを確かめるとホッと胸をなでおろした。
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『あら、早いのね、圭ちゃん・・・・?』
部屋に行くために階段を昇りきった所で階下から母の声がした。
『ただいま・・・・』
消え入るような小さな声に、母は済まなさそうな声を出した。
『ごめんなさい、今日は遅くなるって聞いてたから、まだ夕飯の支度できていないの。』
謝る言葉に一瞬、ドキリとした圭子だったが表情を押さえて言った。
『夕飯はいらないわ・・・食欲がないの・・・・』
手摺にもたれながら、気だるそうに声を出している。
『ちょっと・・・疲れちゃったから、もう寝ます』
『あら、そう・・・・風邪かしら?』
『大丈夫、本当に疲れただけだから・・・』
階段を昇ろうとする母を手で制すると、素早く自分の部屋に入った。
後ろ手に閉めたドアにもたれながら、高鳴る心臓の音を聞いていた。
何事も無かったような母の態度に、今日の出来事が全て夢であるかのように思えた。
着替えを済ませ、ベッドに横たわると強烈な睡魔が襲った。
眠りへと導く霧に包まれながら、本当に夢であればと願うのだった。
しかし、泥のように眠った後に少女を迎えたのは、幾分スッキリした意識と強烈な罪悪感だった。
ドッと溢れた涙は、忌まわしい記憶に気が狂いそうになる理性をかろうじて救ってくれた。
ひとしきり泣いた後、気持ちを落ち着かせようと圭子は今日の出来事を改めて考え直すのだが、どうしても納得出来る筈もなかった。