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子供にとっておそらく一番胸を躍らせる時期である師走の日曜日。
竹中恵美子は夫の雅一と娘の奈美とともに、最近郊外にできたばかりの
ショッピングモールに来ていた。
小学五年生の奈美は服が欲しいらしく恵美子の手を引き何軒ものショップを梯子していた。
雅一は、金でいいという長男の雅弘と違って、ちゃんと欲しい物をクリスマス
プレゼントとして貰おうと形式ばる奈美に、まだまだ子供だな…と優しい視線を向けていた。
「だからこういうの奈美にはまだ早いわ。さっきのお店のほうが…」
「似合うの!このワンピース着てブーツ履きたい!」
「こんなお姉さんが着るような服いつ着るのよ、いつも服汚して帰ってくるのに…」
やれやれといった表情で雅一は、そんな母娘の会話に入れるはずもないので、
二、三歩距離を置きこのシーズンならではのカラフルな装飾と盛り沢山な
商品を眺めていた。
スポーツ店の店先には所狭しとハイブランドなシューズが手頃な値段で並んでいた。
雅一は自分の足元、通勤件休日用の安価な革靴を眺め、せめて休みの日ぐらい靴を変え
ようたほうがいいかな…娘も年頃だし世間のお父さんが娘からそう言われるようには
なりたくないな…と最近めっきり服装などこだわらなくなった自分を省みた。
3K。臭い、汚い、嫌い…自分ではそう言われる様な外見はしてないつもりだが、
子供の…特に女の子の感覚は大人の女性以上の物がある、だらしない所を
見せていてはしまいに口も聞いてくれなくなるのでは…侮ってはいけない…そう思い
男性用のショップはどこかと見回した。
「だいたいお母さんこそもっとオシャレしてよ。暗い色の服ばっかだし、
スカートなんて滅多に履かないし。」
「あのね、お母さんがオシャレな服買ってもどこに着ていくのよ?貴方達の世話ばかりで
家から出る間がないじゃない」
「でも髪型ぐらいちょっとは変えてよ、ずっと後ろで括ってばっかじゃん」
「節約してるんです。そういう事は…」
おっと、話がまずい方向へ…そう思った雅一がたいして興味のないダメージジーンズの店先で足を止め髭だらけのデニムを手にしてやり過ごそうとした時だった。