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「ありがとうございました」
店先まで見送りにきた店員に軽く手をあげながら、初老の男が雅一達の方へ向かってきた。
辛子色のインナーに細めのデニム、靴も年季が入っているがその辺の店には並んでない様な革靴を履き、胸板が厚いのか濃紺のジャケットを窮屈目に着こなしていた。
「あ、部長…」
雅一は恵美子ら越しに、前から歩いてきた男に声をかけた。
振り向いた恵美子と奈美はキョトンとした目で雅一とその男を交互に目を配った。
身長は雅一より10cmは高いだろう、軽く180cm超えているその男は
少しびっくりした表情で立ち止まると笑顔で応えた。
「竹中君じゃないか、えっと初めまして大内と申します」
そう言うとがたいの良い引き締まった体を丁寧に折り曲げた。
恵美子は少し慌てた様子で頭を下げ、束ねた髪を触りながら少し後退り
雅一の横に並んだ。
「部長の大内さんだ。」
「初めまして、家内の恵美子です。いつも主人がお世話になっております」
そう言い深々と頭を下げた。
「奈美、ご挨拶しなさい」
「こんにちは…」
先程まで恵美子に突っかかっていた勢いは何処へ行ったのか、恵美子に言われ、
後ろからもじもじと返事をした。
「小学五年生です。まだまだ子供ですから照れちゃって…」
雅一がそう言うと奈美は赤くなって恵美子の後ろに隠れた。
「可愛い盛りですね、奥さまも…竹中君、こんな美人の奥さん居たなんて
一言も聞いてないぞ」
少し照れたような顔で大内がそう言うのを聞いて、恵美子も頬を赤らめた。
竹中雅一が本社勤務になったのは三年ほど前で、それまでは長く地方の支店を
行き渡りそこで恵美子とも出会い一緒になったので、大内が知らないのは無理もない。
「いえいえ部長、見た通り普通のどこにでもいる感じの嫁ですので…」
雅一が笑顔で申し訳なさそうに言うのに、恵美子が少し怒ったかの様に
目を丸め膨れっ面で夫を睨むのを見て
「竹中君、私だって見る目はあるんだよ。悪いが君には勿体ないぐらい
素敵な方だってぐらいすぐわかるよ、ね、奈美ちゃん?」
さっきはよくも恥かかせたなっとばかりに奈美が大内に行ったセリフが
竹中夫妻を撃沈させた。
「はい!お母さんは本当は綺麗なんです。でもお父さんの給料が少ないから
オシャレな服も買えなし、美容院にも行けないの。部長さん、お父さんの
給料上げてあげ…」
「奈美!やめなさい!」
恵美子が奈美の口を押さえた時は時すでに遅し。大笑いする大内に
「部長、本当に申し訳ありません…いつもこんな感じで…」
と、申し訳なさそうに雅一が頭をかいていた。
「いい家族だなぁ。奈美ちゃんの言う通りだよ、お母さんはとっても美人だよ。
お父さんの事は任してね、いっぱい貰えるようにおじさんも頑張るからね」
恥ずかしそうに俯く恵美子に大内の熱い視線が注がれていた。