その淵を這い出す。-1
自分の人生騙されやすい?リスク有り。トラブル多数の熱情の道。
有能な人材であれ。
オヤジは寝言のようにつぶやくが、
有能……誰の為?
迷いは迷いを呼ぶ。
虚勢を張り続けてきたツケ。
そんなこと上の空で生きてきた。
たくさんの好機を逃してきた。
恋も仕事も。
選択肢の中に紛れたババを引き当てたことも気付かずいた。
いま深い底にいる。
這い出せるだろうか?
目覚めるといつもの日常を失ってしまったことを忘れていた。
忘れていたんじゃない。
消してしまいたかったんだ。
仕事と家庭を手放した。
理由?
そこに在り続けること、縛られ続けることを私が拒んだからだ。
秋の朝空はそんな迷いや後悔を癒してくれた。
天高く。
それだけでよかった。
結果的にその決断がじわじわと私を蝕んでいくこともわかっていた。
家具も生活感もないアパートでぼんやりする。
考えることは一つだけ。
この選択は正しかったのか?
グジグジといつまでも心に棲みつくモヤモヤ。
何処に行くのかも決めずに夜行列車に飛び乗ってしまった様な己の無知を憎みながらも
その無知が与えたこれからの可能性に縋った。
縋るという表現はあまりに弱々しく情けなく感じるが、いまも打ち壊す為にはこの決断しかなく、それを肯定的に捉えない限り悔いは残り続ける。
先には
そう先には進めない。
苦いコーヒーを流し込みながらリモコンを押す。
たわいもないゴシップが目に映った。
価値ない話題にマスコミは飛び付き持て囃し、飽きたら捨てる。
ポイっとクズ籠にティッシュを投げ込むように。
全てを打ち棄てた。
しかしこのままだと自分がクズ籠行きになってしまう。
不愉快なワイドショーに我慢できずチャンネルを替える。
どこも似たような話題ばかり。
空腹を感じ台所で昨日の残りを見繕った。
冷えたそれを流し込みため息をつく。
生活感のない食事。
オートミールの毎日がこれから当分続きそうだ。
これが有能な人材の結末か……。
習慣を変えられないステレオ人間だった。
そんなんだから一旦変えてしまうと
すべてがギコチない。
機種変したばかりの携帯電話のように使い方が解らない。
この未知数の人生の使い方がさっぱり。
一体どのボタンを押せば起動するのだろう。
軌道に乗るのだろう。
未来に対する恐れ、不安。こんな事ならあの束縛の中に身を委ねておけばよかった。
くだらない後悔ばかり。
いつまで此処で立ち往生しているんだろう。
愚かな自分がどうしようもなく情けなく愛しい。
ダメ人間。
そもそも携帯電話を機種変しても今までまともに説明書なんて読まなかった。
使っていくうちに体得するもの。
勝手にそう思い込んでいた。