その淵を這い出す。-2
世界は急速に廻り続けて、その速度からロクデモないものが産み落とされる。
次から次へ形を改める携帯に何の意味があるのだろう。
時の回転の中についていけず使えなくなったらクズ籠行きなのに。
ぐずぐずしてはいられない。
燻っていられない。
まだこの目に何かが映るうちに始めなければ。
この底は居心地悪いわけではなかった。
少なくとも感覚的には。
自分の中に有るものを吐き出す勇気がなかった。
この底に辿り着いて
虚飾を大切に着飾る必要は既になくなっている。
私は吐き出す。
汚くて人間臭くて
いつもこの底らへんで燻っていたそれを。
浅はかな夢。
憧れ。
そして欲望を。
だれもが自信という薄っぺらな鎧をまとい戦場へ赴く。
だれもが自身の傷を深くしたくない。防ごうとする。
傷つけない症候群も現代人の性だと思うが、私もその一人だった。
橋を叩いて渡る。
そんな生き方をして今まで守ってきた。
避けてきただけだ。
痛みを。
目をつぶってきただけだ。自分の深くに潜む激情を。ありきたりな生活に飼われて牙も抜かれかけていた。肉食動物の武器を。
戦場で闘う剣士の刀を。
ただ小さくなって震えていただけだった。
当てにならない経験から行動をパターン化して型にはめてきた。
自分をはめてきた。
その枠組を破壊してきた。
躊躇するな。
振り返るな。
振り返るともう先に進めなくなってしまうから。
いつまでも揺りかごに揺られてはいられない。
この底から這い上がれ。
掴みとれ。
そして離すな。
そこに光がなくても。
人生は短い。
掴み損なって終わるくらいなら。
余計な重りは捨ててしまえ。
断崖に指を掛ける。
この人生に何を賭ける。
動かなくなるまで。
いびつな壁をよじ登りだす。
指先にはもう感覚はない。
だけど見えている。
眼上の光が。
呼吸をするのも忘れて這い上がる。
一歩一歩。
心残りが足を引っ張るけど。
振り返るな。
這い出してからまた此処に落ちるのが恐ろしい。