夏祭りの思い出 〜 神社裏で彼女が・・・-1
僕は中学2年の夏、水野さんというクラスの人気者に恋をしていた。水野さんはスポーツも勉強もできるし、性格も優しい。セミロングの髪のすそがくるんと巻いていて最高に可愛い。僕はおとなしくて気が弱いから、水野さんと話すこともなかったけど、ずっと憧れていた。
ある日、男子3人、女子3人の仲間同士で夏祭りにやってきた。女子はみんな浴衣姿で、水野さんは白地に青い花柄の浴衣を着ていた。僕は水野さんの姿に見とれてしまった。
「あっちの店で金魚すくいでもしようよ」
と水野さんが言って、みんなに誘った。
僕は水野さんの後ろをついて歩いた。金魚すくいの店に着くと、水野さんは
「山田くん、一緒にやろう」
と僕に話しかけてくれた。僕は驚くとともに嬉しかった。水野さんは器用に金魚をすくっていたが、僕は下手で何度も破れてしまった。水野さんは
「大丈夫だよ、こうやるんだよ」
と言って、優しく教えてくれた。
水野さんの手が僕の手に触れるとき、僕はドキドキした。金魚すくいを終えて、水野さんは
「じゃあ次は何しようかな」
と言って、僕の手をにぎって連れて行った。僕はもっとドキドキした。水野さんの手は柔らかくて暖かくて甘い香りがした。水野さんと手をつないで歩くなんて夢みたいだった。気分が盛り上がって浮かれているうちに、ふと気がつくと僕と水野さんは、他のみんなからはぐれてしまっていた。
「みんな、どこいったんだろうなあ〜」
僕はあたりを見回した。
「お店回ってたらまたそのうち会えるよ」
と水野さん。しばらくは二人でいっしょに夜店を回ることにした。
「山田くんとはこれまであまり話すこともなかったよね」
と言って、僕に親しく話しかけてくれる水野さん。僕は舞い上がってしまった。
「うん、そうだね」
と言うしかできなかった。水野さんは笑顔で
「じゃあ、今日はいろいろ話そうよ」
と言ってくれた。
水野さんはヨーヨー釣りで可愛らしいヨーヨーをゲットしたり、スーパーボールすくいでカラフルなボールを山ほど集めたりした。水野さんは何でも上手にできるし、笑顔が素敵だった。僕は彼女の隣にいるだけでわくわくした。僕は彼女が喜ぶと思って、チョコバナナやリンゴ飴を買ってあげた。水野さんは
「ありがとう」
と言って、嬉しそうに食べてくれた
僕は水野さんと一緒に屋台を回っていた。焼きそばやかき氷など、色々なものを楽しんだ。わたあめは水野さんが一口食べて、
「甘くておいしい」
と言って、僕にも食べさせてくれた。綿菓子の甘さと水野さんの唇の感触が混ざって、僕は幸せだった。
「あっ、あそこに射的があるよ」
水野さんが指さした先には、銃を使って的を撃つゲームがあった。
「やってみようか?」
「うん、やってみよう」
僕は水野さんについて射的の屋台へ向かった。銃を持って的を狙う水野さんはかっこよかった。僕も頑張ってみたが、全然当たらなかった。
「残念だね」
水野さんが優しく声をかけてくれた。
「でも楽しかったよ」
「そう?じゃあ良かった」
水野さんが微笑んだ。
その時、彼女の顔色が変わった。
「あの…ちょっとトイレに行きたいんだけど…」
「え?トイレ?」
僕は驚いて周りを見回した。お祭り会場にはトイレがあるはずだが、人混みで見えなかった。
「どこにあるんだろう…」
僕はきょろきょろと見回した。
「あそこに神社があるよね?神社裏なら誰もいなさそうだし…」
そう言って水野さんは神社裏に向かって歩き出した。僕はついて行くしかなかった。
神社裏に着くと、水野さんは草むらのところを見つけて
「ここでいいかな」
と言った。
「えっ、ここで?」
僕は信じられなかった。水野さんがこんなところで用を足すなんて。
「仕方ないじゃん。トイレまで行く時間ないし。」
水野さんは悪戯っぽく笑った。
「誰も来ないように見張っててね」水野さんが言った。
僕は水野さんから少し離れたところから、見張ることになった。でも、ついつい水野さんの方を見てしまった。水野さんの後ろ姿が浴衣の白い布に映えて、とても美しかった。水野さんは浴衣のすそをまくりあげて、草むらの中に腰を落とした。白い下着がちらりと見えた。
水野さんは
「見ないで」
と言った。僕は
「ごめんなさい」
と謝って目をそらした。でも、耳はそらせなかった。
虫の鳴き声に混じって、水野さんが用を足す音が聞こえてきた。シューという音だった。それがだんだん強くなって、パシャパシャという音に変わった。僕は顔が熱くなった。水野さんの姿を見ないようにしていたけど音だけで水野さんの用を足す姿を思い浮かべてしまい心臓が高鳴った。水野さんがこんな姿で、こんな音を出していると思うと、激しく興奮した。音が大きいのは、水野さんがジュースとか大量に飲んでかなり我慢していたからかもしれない。そういうことを考えても極度に興奮した。やがて音がやんで周囲は虫の鳴き声だけの静寂に戻った。
水野さんはティッシュを忘れたらしく、僕に持ってないか訊いたが僕も持っていなかった。水野さんは「じゃあ、しかたないなあ」
と言ってゆっくり体を起こした。僕はまたついつい水野さんの方を見てしまった。水野さんは浴衣を整える前に、下着を履き直しているところだった。水野さんの下着に少し濡れた跡がついていた。白い生地に青いしみができていた。水野さんはそれに気づいて、恥ずかしそうに手で隠した。僕は息をのんだ。すぐに目をそらしたが、その光景が頭から離れなかった。
水野さんは浴衣を下ろし整えたあと、ちょっと顔を赤らめて僕に
「見てなかったよね」
と確認した。僕は
「見てなかったよ」
と嘘をついた。でも、僕の目は水野さんの下着の染みをしっかり覚えていた。
水野さんは
「ここでおしっこしたこと、みんなに内緒だよ」
と悪戯っぽく言った。僕は
「もちろんだよ」
と言って頷いた。心の中では二人だけの秘密を共有していることが嬉しかった。
水野さんは
「じゃあ、またお祭りに行こうか」
と言って僕の手を引いた。その手がさっき用を足して洗っていない手だと思うと、妙にドキドキした。
僕たちはまたお祭りの人混みの中に戻って、はぐれた友達と再開したあと解散した。
僕が自転車で帰る途中、水野さんからメールが来た。
「今日は楽しかったよ。ありがとうね」
それだけだったけど、僕は嬉しかった。
その夜、僕は水野さんのことで頭がいっぱいで眠れなかった。水野さんの笑顔や声や仕草や匂いが思い出されて、胸が苦しくなった。水野さんの浴衣姿や下着姿や用を足す音までもが何度も蘇ってきた。もう一度会いたかった。
たまらなくなって僕は自転車で神社裏に向かった。水野さんが用を足していた場所の草むらを狂ったようにかき分けた。草と土が濡れたままで残っている箇所を見つけた。濡れた土を思わずひとつかみして頬に押し当てた。水野さんのにおいがした。水野さんの体から出たものが染み込んでいると思うと愛おしかった。周辺の土と草を全てスコップで掘り返して、ビニール袋に入れて大切に持ち帰った。それを僕の夏の思い出にした。
(終わり)