第五章 匂い-3
『お前は俺の事が・・・』
声が聞こえ始める。
(ち、違うっ・・・)
首筋に当たる息がむず痒く刺激する。
「うっ・・・ううっ・・・」
生臭い匂いに頭が痺れていく。
(お、降りなくちゃ・・・)
このままではどうにかなってしまう。
圭子は身をよじって動こうとしたが人並みの壁はビクともしなかった。
そうするうちにドアが閉まる音がした。
「キャッ・・・」
ガクンと大きく揺れて圭子はドアに強く押し付けられた。
身動きも出来ない状態で電車が発車した。
(ああっ・・そ、そんな・・・・)
ゆっくりと流れ出すホームの風景を少女は切ない気持ちで見ている。
次の駅に停車するまで決して降りる事が出来ないのだ。
そして圭子は思い出した。
この列車は通勤快速で終点までノンストップである事を。