第一章 幸せの風景(画像付)-3
「うん、ママもこっちの方が好きよ・・・」
妻は優しい声で娘を抱き寄せた。
「そうかなぁ・・・」
素直に身をまかせた圭子は、母の身体にもたれながら父の方に視線を向けた。
「本当にそう思う、パパ?」
不安そうに聞く娘に晴彦は力強く答えた。
「ああ、圭子はその髪型が一番良く似合うよ」
「圭子はパパが気に入れば、それでいいんでしょ?」
「そんな事、ないけどぉ・・・」
【フフフフ・・・】
寄り添う母と娘は顔を見合わせて微笑んでいる。
二人がいる。
幸せの風景がそこにあった。
晴彦はそれが儚く危ういものに感じた。
果たして二人が本当に自分の家族であるか自信が無くなる程、愛らしい親子である。
美しく若々しい妻は他人が見れば母よりも姉に思える事だろう。
事実、16歳の娘である圭子に対して母の香奈子はまだ34歳なのだ。
普通の女性なら早く子供を生んだとしてもせいぜい小学生くらいなのに。
「さっ・・・食事にしましょう」
母に促され、圭子も席についた。
青磁のティーポットから注がれた熱い紅茶を一口すすると母を見た。
「あら、これ・・・?」
「そう・・・・
昨日、竹内さんから頂いたお茶よ・・・」
「ふーん・・・」
男の名を聞いた時、晴彦には娘の表情が一瞬曇ったように見えた。
「どう、お味は?」
香奈子が興味深そうに聞く。
「うーん・・・少し薬みたいな匂いがするけどぉ」
カップを弄びながら呟いている。
「無理して飲まなくてもいいんだぞ」
晴彦が言葉を挟んだ。
「いくらパパの友達が売っている商品だからって、
気を使わなくてもいいんだから」