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sacrifice
【その他 官能小説】

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sacrifice-2

彼に抱かれるだけで、思いがけない疼きが生まれる。
触れられるたびに、肌が細波を起こす。
やがて下半身に火芯が点り、私を突き上げる。
時には非常にも、
時には優しくもなれる彼に
私は……絡め囚われてゆく。



彼には部下はいない。
彼には仲間がいる。
連絡網を生かしながら無事に国外脱出するために、
人目を避けながら幾つかの危険地帯をくぐり抜けた。
その合間合間を縫うようにして、体を重ねた。
肉と肉が、
欲望と欲望が、
感情と理性がぶつかり合うようにして
愛を交わした。
……命を交わすように。
瞳に火花を散らしながらも、求めずにはいられない。
……汗と、飛沫とを、散らした。

何度も、
何度も、
何度も。



私には、長年身に付けてきた冷静さがある。
父と共に巡った流浪の生活で得た知識もある。
それらを武器にして
自然災害しかり、
疫病しかり、
差別しかり、
貧困しかり……
常に付きまとう危険を背中合わせにして生きてきた。
……つもりだった。
だが振り返れば、それは何て優しく穏やかな日々だったことだろう。


彼から漂う静かな残酷さは
彼から漲る確かな力強さは
幾多の危険をくぐり抜けてこそ得た“証”そのものだ。
彼といれば安心できる。
彼とならばどこへでも行ける。
この戦場では“一瞬”でもが命取り。
情けもカケラもない。
すべてが命懸けだ。
瞬間、私は彼を信頼した。


揺らぐ想いを、胸の奥にしまおう。
ふたりが繋ぐものは、所詮一時的にすぎない。
どんなに体が暴走しても、
心だけは……
悟られてはいけない。
国外脱出すれば、彼は任務を終える。
独りで生きてゆくことは、
同時にサヨナラを言うことだ。
弱音を吐いてはいけない。
上空からプロペラの音が近づいてくる。
ヘリが下降するまで、すぐだ。
乾いた大地に、風が巻き起こる。
遠くで、立ち上る綿煙が見える。
もうもう、もうもう……と
それは黒く灰色に膨らみ、
大きく広がって青空へと侵略していく。
私の全身を侵略して、
私の心に彼が棲みついたように……
涙を見せてはいけない。
騒音に包まれながら、
心が空っぽになってゆく自分を意識した。


「任務はまだ終わった訳じゃない」
耳元で聞こえてきた彼の言葉に、
朦朧とした神経が目醒めた。
私が自立するまで見届けようという彼は
更なる取引を持ちかけてきた。
「報酬は、君の心だ」
ゆるゆる、ゆるゆる……と
涙があふれた。


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