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闇よ美しく舞へ。
【ホラー その他小説】

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闇よ美しく舞へ。 3 『呪い』-4

 ところが数日後。
 そんな佐奈江が事故に合った。表通りの交差点で大型のトラックに撥(は)ねられたと言う。そして彼女は病院に運ばれ、……そして。
「やだなぁもう〜、お母さんったら大げさなんだから」
 病院のベットの上で佐奈江は呆気羅漢(あっけらかん)としていた。聞けば怪我は大したことは無く、トラックに撥ねられる直前、避けて転んだ時に左の手首をくじいただけの事らしい。
 検査のために入院とはなったものの、それ以外に異常は無く、どうやら明日にも退院出来るとのことである。
 余り友達の居ない佐奈江の事である、見舞いに訪れる者も少なかった。それでも幾人かのクラスメイトが彼女の側で屯(たむろ)って居る。美闇はそんな彼女らと顔を合わせて、微笑んだりもする。
 しばらくして見舞いに来ていた友人達が病室を後にすると、一番最後に、美闇もまた部屋を出ようとした。その時である
、不意に佐奈江が美闇を呼び止めた。
「どうしたの」
 美闇はまた一人、ベット脇まで戻って行くると、何か言いたげ気な佐奈江の顔を覗き込み、微笑んだ。
 すると佐奈江は、近づいてきた美闇の手を握り絞め。
「ありがとう龍神さん。貴方は命の恩人だわ!」
 そう言いながら、以前美闇にもらったビーズ玉人形を、そっと彼女の掌の上に乗せて、涙を流し始めた。
「お人形…… 壊れちゃった」
 佐奈江は、そうも告げた。
 見ると人形の首と胴体が千切れていて、そこに有ったはずの、幾つかのビーズも無くなっていた。その後慌てて元にもどそうと佐奈江が繋いだのだろう、不器用に切れた糸を釣り糸でもって補強し、直した様子が伺えた。
「きっとこの子が小泉さんの身代わりに成ってくれたのね」
 美闇はそう言いながら、佐奈江の手を握り返して、彼女に向ってまた優しく微笑んだ。
 美闇に優しい顔を向けられてホッしたのだろうか、それとも本当は怖くて溜まらなかったのだろうか、佐奈江はそのままベットに顔を伏せ込み、泣いた。
 そんな彼女の頭を、美闇は優しく撫でていた。


 翌日。 
 いつものように登校して来た美闇であったが、自分の靴箱を開けるなり、中から落ちてきた封筒を拾い上げて、訝しみもする。
 封塔の中には、ありふれた大学ノートの切れ端に『放課後、校舎の屋上に来られたし』などと書かれた、手紙らしき物が入っており、乱雑に書き殴った文字からして、どうやらラブレターの類(たぐい)では無さそうである。当然の事ながら、差出人の名前なども無く、相手が男なのか女なのか、あるいわ、相手が呼び出そうとしているのが本当に自分で良いのかすら、疑わさせられる。
 人を呼び付けるにしては単刀直入、単純明快な文面に、一見それが『果たし状』かとも思えて、笑いを誘いもするが。どうやらそれは無いだろう。実際それを見て美闇も ”クスッ”と噴出していた様子である。
 美闇はそんな手紙をスカートのポケットへと押し込むと、何食わぬ顔で教室へと向かった。


 放課後。
 約束の通り、美闇は校舎の屋上へと遣って来た。
 この時間、いつもならば数人の生徒達が屯(たむろ)って、一時のおしゃべりに花を咲かせて居たりもするのだが、どうやら今日は誰も居ない。だだっ広い校舎の屋上に居るのは自分一人だけ。時折グランドを駆け回っている陸上部員達の掛け声が聞こえて来たりもするが、いたって寂しいものである。
 美闇は屋上の縁を取り囲んだ高いフェンスに寄り掛かり、自分を呼び出した者が現れるのを、じっと待った。
 しばらくして時間が経ち、辺りが薄暗くなって来た頃である。
「いつまで隠れているつもりなの。いい加減出て来たらどう。わたし……そろそろ飽きてきたんだけど」
 不意に給水塔の足場を支える鉄骨の陰に向って、そんな事を言い出した。


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