闇よ美しく舞へ。 3 『呪い』-2
「えっ! じゃぁそのお守りって…… わたしのことを笑わせようと……」
「お守りって言うのは本当よ。不幸な出来事があれば、この人形が身代わりになってくれるから。そうだ! これ小泉さんにあげるわ」
「えっ! いいのう!?」
「ええもちろん。なんだか元気なかったみたいだし。それに今の小泉さんて、何かに取り付かれたような顔してるし、こんな物でも役に立てば、わたしも嬉しいから」
そう言いながら美闇は、持っていたビーズ玉人形を佐奈江に手渡していた。
「ありがとう龍神さん」
佐奈江は美闇から受け取った人形を左掌の上に乗せると、しばらく意味ありげにじっとそれを見詰めて、なにやら物思いに耽ったりもする。そして時折縋(すがる)るかの様に、悲痛な面持ちでもって人形に祈る素振りをして見せると。それを見て美闇も小首を傾げるのだった。
「大丈夫ぅ…… 小泉さん?」
美闇は、そんな佐奈江の左手を握って、彼女の気を煽る。
「あっ、ごめんなさい…… ボーっとしちゃって」
佐奈江は美闇に手を握られた事で我に帰ったのか、同時に涙ぐんでいた瞳を右手の人差し指で拭っていた。
突然声を掛けてきた事と言い、迷信でしかないビーズ玉人形に祈ったり、普段の彼女の素行からしても、今日は何だか変である。これはただ事では無いのだろうと、美闇でなくても直ぐに解る事だった。
美闇は吝(やぶさ)かではあったが、佐奈江に事情を問いただす事にした。
最近、美闇の通う『県立藤見晴高校』では奇怪な事件が続いていた。
奇怪、そう言ってしまうと何だか現実離れした怪奇現象でも起きているかのようではあるが、まあ……そんな噂も無きにしも非ず。即ち、ここのところ続く『自殺 & 事故死』という不幸な出来事が、近年まれに無く、やたらと起きており、生徒達を不安にさせていたからである。
警察と学校関係者、及び関係各位のPTA達は口をそろて『学生達の間で広がった一種のストレスが、何らかの要因により連鎖的、且(か)つ発作的に、一種のパニック症状を引き起こさせたのだろう』と分析し、被害の拡大を抑えようと、在校生に対して『ヘルスメンタルケア』、つまり勉強し過ぎて『うつ病』になるな! とか、悩み事は一人で抱えていないで、なんでも相談しろ! とか言う事を躍起に成って行ってはいるが。はたしてどれ程の役に立っていることやら。
そんな大人達を尻目に、生徒達は噂する、この学園は『呪われている』と。
佐奈江は恐る恐る、スカートのポケットから小さく畳(たた)んだハガキを取り出すと、それを美闇に手渡した。
美闇はハガキを受け取ると、一瞬、佐奈江の顔を仰ぎ見て、彼女に伺いを立てる。
佐奈江は黙って、頷き。
美闇は四つ折になったハガキを静かに開き、そこに書かれていた文面に眼を通した。
そこには、何やら手書きで有りながらも、丸でワープロでもって印字したかの様な、無機質で生気の無い文字が、のべつ綴(つづ)られており、それを見る美闇の瞳を、嫌悪(けんあく)に曇らせもした。
『これは呪いの手紙です。貴方は運命を信じますか? 否。信じようと信じまいと運命には抗(あらが)えないのです。もう時期貴方は死にます。せめてもの手向(たむ)けとしてこれをお送りいたします。どうぞ残りの人生で、今までの自分を悔い改めてください。』