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俺が女に見える世界の話
【同性愛♂ 官能小説】

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俺が女に見える世界の話2-1

俺は今、部長と一緒に居る。

「…俺も社長と掛け合ったのですが、会社の規定でどうしようも…」
「そうですよね…しょうがないですよね…」

さめざめと涙を零すと、肩に手を置こうと部長は手を伸ばし、腹でビールジョッキを倒す。
かっこわる。本当にこんな男に抱かれる女性ってなんなんだろうか。

お話があるので、と呼び出された安居酒屋。
俺の退職の話なんて会社ですればいいのに、美女の俺と2人きりになりたいが為にわざわざここへ呼んだのだ。
しかもこれを話し出したのは、まぁまず一杯と言って酒を勧めまくってきてだいぶたった頃だ。
お持ち帰りしようとしてるのが見え見え。
てか、お前、月末はウチは忙しいはずなのになに定時で帰ってんだ?
怒りで嘘泣きが止まりそうだ。

「お姉さん、気を落とさずに…」
「ええ、すいません…
でも、良かったです。こんな親身になって下さる方があの子の上司で」
「まぁ…まぁ、それは…」
「会社の人間関係が原因かもと思ってましたので…上司が自分のミスを擦り付けてくるとか」
「いえそんな…」
「しかもこっそりどうにかしようとした挙句のぐちゃぐちゃになってからの丸投げとか」
「いえそんな…」
「そんな状態を納期2日前に言って、自分は予定してたからと家族という体の浮気相手と旅行に行くとか」
「いえそんな…」
「そんな事絶対しない素敵な職場なんですね」

本当にあったゲスい自分の話をふっかけられ、親のセックスを見た時の様な顔になる部長をアテにビールを飲む。
こんな奴が居る以外はいい職場だったんだがまぁ本当にしょうがない。

「ごめんなさい!私、楽しくてちょっと飲みすぎたみたい…」

まったりとした声で、恥ずかしそうに言ってみる。
自分には自分の声にしか聞こえないので何とも気味が悪いが、部長の表情は、紳士を装いながらも完全に勝ち確の状態になる。

「そうですか…ちょっとどこかで休みますか?」
「大丈夫です。帰ります」
「そうですか……遅いので送」
「大丈夫です。帰ります」
「そうですか…」

美女に冷たくあしらわれ、紳士の装いがしなしなと萎んだ部長。俺は笑いを堪えられただろうか。
何か不審な動きがあったら教えてと言って従業員にLINE交換を迫ってきた事がある部長の奥さんに俺名義で連絡と証拠写真提供を済ませ、店を後にした。


あれから、親父とはセックスはしていない。
時々、一緒に呑んでいる時に触れとか触らせろなどとは言ってくるが、勃起はしてもそれ以上に発展することは無かった。
元々、俺が社会人になってからは凄く仲が良かったし、なんだかその延長みたいな感じで、そこにちょっと性的な遊びが加わったような、そんな関係になった。
性を通じて子供の頃に欲しかった距離感をも取り戻しているような雰囲気が、俺達の間にはあった。
それが心地好くて、セックスをしたことに後悔は生まれなかった。


部長の下心のおかげで俺は会社都合の解雇扱いとなり、退職金も色がつき暫くはお金にも困らない感じにはなった。

不安なのは、これからの仕事だ。

戸籍の性別を変えるのは、なんとか可能だろう。
それからなら仕事も探せる。
但し、俺が女に見えるのがいつまでか、それは全く分からない。
俺はトランス女性ではないし、戸籍も変えたくない。
途中で普通に男に見えるように戻ってしまったら目も当てられない。
性別が関係ない職業は存在するが、それはある日突然性別が変わっても良いこととイコールではない。
世の中はそこまで進んではいない。
俺は、今まで以上に性別が社会の柵に縛り付けられている事を実感した。

帰りの電車は激混みだった。
最近は満員電車が煩わしくて乗っていなかった。
今日も本当は避けていたのに、人身事故からの再開が重なってしまったようだ。

以前コワモテおじさんが言っていたように、無防備に見える女性ばかりを痴漢は狙うものだとばかり思っていたが、実際はそんな見境なんて無いようだ。
俺が服を変えても、触ってくる奴は触ってくる。
それに、痴漢の形態は多様だ。
尻や前ではなく脇腹なんかを狙ってきたり、薄手のカバン越しに股間を押し付けて判断しづらくしてくる人や、髪の毛を噛む奴なんかも居た。
最後の奴は推測で、実際には俺のビジョンでは俺の短髪に唇を近づけているのだから相当な恐怖だったし恥ずかしかった。

少し車内に隙間ができた時、ドア脇に居た男性が「おっ」と声を発した。
顔を見上げよく見ると、例のコワモテおじさんだった。

「あ…この前はありがとうございました…」
「いやいや、怖かったでしょう。君を助けられて、良かったです」

実はその時も尻を痴漢されて居たのだが、俺がこのイカつい男性と知り合いだと知って急に手を引いたようだ。
しかしこのおじさん、前回はダボっとしたジャージ上下でイカニモな風貌だったが、意外にも話し方は穏やかだ。
その日はネイビーのスーツを着ていて、多少は裏稼業感が抑えられ、ベンチャー企業社長みたいな雰囲気だ。

「君、この沿線に住んでいるの?」
「はい…樋田原駅です」
「本当に?いや、僕ね、駅前でバーをやっているんだ。ほら、半年前に、白いドアの店ができただろう?」
「あー、バーだったんですね?」
「そう。…良かったら、ちょっと来てみないか?勿論、お代は要らないから」

良い男にはついついついて行ってしまう。俺の悪い癖だ。


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