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彼の手の中
【学園物 恋愛小説】

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彼の手の中<第三話>-1

恋をすると人は輝けるとか、強くなれるとか、あれって嘘だと思う。
俺は咲智を好きになってから、くだらないことで嫉妬するようになったし、嫌われるのが怖くて臆病になった。
「これは、この公式」
「ここを二乗するってこと?」
「そうそう」
学校の昼休み、教室で咲智の追試勉強に付き合っている。しかめっつらでたどたどしくペンを動かす彼女。
どんな表情でも、咲智は可愛い。この前初めて見た泣き顔も、しょっちゅうさせてしまう怒り顔も、全部。
「よし、出来た!」
一番は、この笑顔だけどね。
咲智は腕を上げて体を伸ばし、大きく息を吐いた。
「健斗、担任が呼んでたぞ」
クラスメートの加宮が俺の肩を叩いた。
「わかった。ありがと」
俺は席を立ったが、さりげなく振り返ると加宮はそこに居座り続けていた。
咲智は俺と付き合い始めてから雰囲気が柔らかくなり、俺以外からも話し掛けられることが多くなった。主に男子。
本人は知らないみたいだが、以前から彼女は人気があった。みんな口では彼女を悪く言っていたが、本当は彼女に惹かれているのがわかった。近寄りがたいオーラはむしろ憧れを抱かせ、抜群のスタイルと整った顔立ちは自然と人の目を引いた。噂や評判に躊躇して敬遠せざるを得なかっただけで、みんな彼女が気になっていたはずだ。
廊下に出てから、もう一度咲智の方を見た。相変わらず、加宮が彼女に話し掛けている。
胸の中が真っ黒く塗り潰されてゆく。いつから俺は、こんなに心の狭い奴になってしまったのだろう。
最近、咲智の前でも醜い感情を抑えられないことがある。表情に出にくい体質に助けられているが、日に日に限界が近付いている。
きっと、咲智はこんな俺を知らない。知られてはいけない。棄てられるのが怖い。弱くて情けないだけの俺に、どうか気付かないでいて。
俺は二人からなんとか目を逸らし、逃げるように歩きだした。


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