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彼の手の中
【学園物 恋愛小説】

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彼の手の中<第三話>-3

目を開けると、咲智がいた。
「…なんでいるの?」
「なんでって、当たり前でしょ?宮川いきなり倒れたんだよ?すごいびっくりしたんだから」
「絶対棄てられたと思ったのに」
「何ばかなこと言ってるの。大丈夫?気持ち悪くない?熱は大分下がったみたいだけど。ここ保健室だから、まだ寝てていいよ。通り掛かった人たちが運んでくれたんだ」涙目で心配そうに俺を覗き込む。それをもう少し見ていたくて、わざと返事をしないでいた。
咲智の目に俺はどんな風に映っているのだろう。本当の俺を知ったらどうなるのだろう。
「顔色悪いね。まだ熱あるのかな」
額にのせられた柔らかい手。
この手を離したくない。
「咲智は、俺のどこが好きなの?」
「何、急に」
「だって俺、全然かっこよくないし。いい奴でもない。咲智が思ってるような人間じゃないよ」
「…宮川?」
「咲智が学校で浮いてるの見て、本当は安心してた。この前、泣いてくれたときも実はすごい嬉しかった。今だって、咲智が一生懸命看病してくれてんのに…」
咲智は目を丸くして俺を見ていた。
怖いけど、隠していたいけど、本当の俺を受け入れて欲しいから。ずっと側にいたいから。
「こんなに心配してくれんなら、熱下がんないままでいいのにとか思ってるし」
咲智の手が離れる。
やっぱり、ダメなのかな。こんな俺じゃ。
「音痴なところ」
「…え?」
「たまに手抜きして頭ボサボサなところ」
「な、なに?」
「教科書が落書きだらけなところもかな」
咲智は俺の頬を抓り、優しく微笑んだ。
「好きだよ、ダメなところも全部」
咲智の穏やかな声が触れる。
沸き上がる感情ばかりが先行して、どう表現すればいいのかわからない。伝えたいことがありすぎて、言葉にならない。泣きたいような、叫びたいような、どうしようもない感覚に包まれる。
嬉しくて、切なくて、胸が苦しい。
「でも、熱は下げろ」
抓られていた頬を今度は引っ張られる。でも、その痛みがこれは夢でないと教えてくれた。
「いいの?俺で」
「宮川がいい。かっこ良くても悪くても」
抱きしめようと体を起こすと、再び眩暈に襲われた。


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