第三章 繰り返す過ち-2
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「ん・・・」
私は目を閉じ、圭君の背中を抱きしめていた。
早朝の眠気が残る気だるさと、心地良い唇の感触が私を夢の中に漂わせていた。
圭君の背中は大きく、私の両腕では余るほどだ。
「唯(ゆい)・・・」
圭君の囁きが、私の唇の中で溶け込んでいく。
目覚ましが鳴る前に起きた私は夫を起こさないよう、そっとベッドを後にするはずだったのに。
圭君の腕が、私を引き戻したのです。
そのまま。
唇が重ねられて。
「もう・・・突然、なんだからぁ・・・」
私は鼻にかかった声で呟いた。
「フフフ・・・」
圭君、夫は嬉しそうに微笑んだ。
私は逃げるようにベッドから降り、遅めの朝食の支度に向かった。
今日から圭君が出張に行くから二日間、一人でお留守番。
だから、朝食くらい凝ったものを作りたかったんだ。
だって、私達、まだ新婚一年目なんだもの。
一日だって、離れているのはイヤ。
それくらい、私は圭君が好き。
泣きたくなるくらい。
皆様、おかしいですか・・・?
こんなに、夫が好きな妻って。
キモイ・・・ですか?
でも、許してください。
ずっと、ずっと・・・好きだったんです。
中学一年生の時から、ずっと。
圭君に胸キュンでした。
なのに。
何で、あんなこと、言ったのかなぁ?
朝食を終えて、身支度をすませた圭君。
お出かけのキスの時。
「イタッ・・・」
つい、漏らした声に。
「どうしたの・・・?」
心配そうに覗き込んでくれた。
だから、つい、冗談のつもりで。
言わなきゃ、良かったのに・・・。
「圭君・・・おヒゲ、チクチクして痛いの・・・」
おどけて言ったつもりだったけど、夫の表情が一瞬、凍った。
「そう・・・か・・・」
寂しそうに俯いた後、すぐに顔を上げて、そのまま何も言わずに出ていったの。
「圭・・・君・・・」
私は玄関にたたずみ、締まった扉の灰色を視界の全てにして、呆然としていた。
それが、圭君、夫との最後の別れになるとは夢にも思わずに・・・。