先輩は僕のもの-2
リビングに戻ろうとすると、キッチンに立っている加奈子は三五〇ミリ缶の缶ビールを口につけていた。
「起きちゃったから一本飲んでから寝よっかなって」
「歯磨き粉、借りました」
「うん。もちろん」
理央はキッチンに立つ加奈子の側に寄る。
「嫌じゃないですか、僕のこと」
「ん?何で」
「昨日の……こと」
「昨日のことは……許さないよ、そりゃ。でも、佐藤くんは何の理由もなくてああいうことしないと思ってる。八つ当たりしたいことがあったんじゃないの。理由があっても、もちろんダメだけど」
理央は唇をぐっと噛んだ。加奈子はやはり、優しい。
「話、する?」
下を向く理央を覗き込んで、缶を持ったまま、加奈子は理央の手を引っ張った。
布団の上に二人は座る。
縦に敷かれている布団の、加奈子は奥に、理央は手前に。
加奈子はローテーブルの上に缶を置いて、まだ下を向く理央を見た。
「気持ち悪い?大丈夫」
「ん……大丈夫です」
本当はふらふらするが。
目の前にあるスポーツドリンクを手に取り、喉に流し込んだ。
「僕ね、やっぱり中村さんに甘えてる。甘えたい」
「うん……?」
不思議そうな顔をして、加奈子が顔を傾ける。
「僕、中村さんが加奈ちゃんて亨に呼ばれてるの聞いちゃったんです」
「ああ……昨日の、あのとき」
「いとこって知らなかったから……死ぬほどムカついた。何で僕と同い年の亨が、僕より親しげに加奈ちゃんて呼んでるんだろうって。迎えに行くって、何って」
理央はじっと加奈子を見つめる。
スポーツドリンクを喉に流し込んだにもかかわらず、喉がカラカラになる。潰れるほど、アルコールを飲んだせいだけではない。
「亨に……この世の終わりみたいな顔してたって言われた。すごく腹が立って」
理央の頭に、昨日の会議室での出来事が走馬灯のように思い起こされる。鍵を締め、長机に加奈子の体を押し倒し、強引にショーツの中に手を差し込みーー
「だから、会議室の鍵を締めた。独占したかった。たったあれだけのことで。二人きりになったら、中村さんに乱暴することしか考えられなかった。僕はそういう人間だよ。優しくなんかない」
「え……それで、あたしのこと……」
「中村さん……」
また、ひどいことしか考えられなくなる。
言葉よりも先に、手が出てしまう。理央はメガネを外してテーブルの上に置いた。
「あ、佐藤…くんっ」
理央は加奈子の体を抱き寄せて、そのまま布団の上に押し倒す。
「た、体調大丈夫なの……?!」
「心配するとこ、そこ?今から僕に犯されるんだよ、中村さん」
「ま、またそんな言い方……そんな風に思うわけ、無いでしょ…?!」
加奈子はそう言うと、理央の体を抱きしめる。
そして、理央の首筋にちゅっとキスをした。
「う、ぁ、中村さん……」
舌が這う。理央の大好きな、その舌が。