母ちゃんの部屋で-3
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「おい、おい!」ルニの声を聞いて、俺は気づいた。
母ちゃんの胸を触る現場を、ルニに目撃されたことを。
「ど、」俺は例によって、胸から手を離すことも忘れてルニに聞いた。「どこに……行っとったん?」
「コンビニに、コピーとりに行っとってん。」ルニは下げていたバッグからコピーした紙をたくさん取り出した。「診断書やら何やら……母ちゃんが死んだって証明を。それの元はみんな(葬儀の)業者さんが役所や病院でとってくれたんや。」
ルニはそれを床に置くと「ワタシも触っとこ。」と母ちゃんの胸に手を伸ばした。
「うわ……」ルニは母ちゃんの着物の襟に触れた。「白装束やね。」
「うん。」
「ここに……」ルニは胸をなぞった。「AED当てとったね。」
「うん。」
「母ちゃん、キレイな乳首やったね。」
「いや、そこまで見てなかったわ。」
「なんか……顔に白い布をかけたりせえへんねんな。」
「そうやな。」
「ひとが死んだら、もっと気味悪い感じになるんかな、と思っとったけど……ほんま、フツーに寝とる感じやな。」
「そうやな。俺もフツーに母ちゃんに触っとったし。」
ルニは周りを見回した。
「父ちゃんが死んで、この部屋を母ちゃんが使うことにきめたとき、母ちゃん『自分の部屋持つの初めてや!』とメッチャ喜んどったね。」
「うん。父ちゃんの持ち物は、みんな俺の部屋に押しつけて。」
「本もCDもDVDもフィギュアも……母ちゃんみんな自分の好きなモノで固めて。その好きなモノに囲まれて送られたかったんやね。」
「ルニは、(葬式について)母ちゃんから何か聞いとったん?」
「うん。」
「それで業者さんと手ぎわよく話が出来たんやな……。俺、母ちゃんが身体弱いほうやから『母ちゃん死んだらどないすんのん?』なんて聞きたくなかったもん。」
「ワタシも……この部屋で一回だけ母ちゃんとDVD見とったら『私の葬式はここの部屋で、ルニと兄ちゃんだけでやってもて』って言われただけ。」
ふいに、ルニが顔を下げて母ちゃんの唇にキスした。
「おいおい……」俺はそう言いながら、先をこされた、と思った。
「あー、もう……。
母ちゃん、ええ女やな!」
唇をはなしたルニが言った。
「うん、ええ女やわ。」
「ええ思い出だけいっぱい残して、さっさと自分だけひとりいってまうんやから……。でっかい彗星見るまで百歳まで生きる言うとったのに、70そこそこで行ってまうなんて……それに。」
ルニは装束をつかんだ。
「ワタシに……着付けのワザがあったら、こんなん一回脱がしておっぱい吸いたかったのに……!」
「そうやな。」俺はルニの髪を撫でて言った。「着衣に乱れがあったら、業者さんに『死姦でもしたんか』と思われそうやな……。」
▽
結局、俺のセックス遍歴は
まだ、母ちゃんで止まってる。
【おしまい】