ママとぼくのナイショ-1
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「ママ!」
休日の午前、c学二年生のえ武はスマホの画面を眺めていた母親のま里に声をかけた。
「なに、どないしたん?」ま里は笑顔をあげた。しかし一瞬にしてその顔は厳しい怒りに満ちた。そして小声ながら強い調子でえ武に言った。
「キミ、何のつもりやねん。やめろや!」
「じゃ、これ、ママにあげる。」
え武は平然としてま里に、唇に寄せていたものを手渡した。
それはけむりをたちのぼらせる、一本の煙草だった。
ま里は戸惑いながら煙草を受けとったが、それを唇に寄せて吸いこむと、ゆっくりとけむりを吹き出した。
「どない、」え武はま里に聞いた。「おいしい?」
「ふっ、」ま里はけむりまじりにつぶやいた。「かわいい息子に煙草をもらうなんて、アタシもアカン女になったな。」
それを聞いてえ武は言った。
「しばらく吸うてなかったから、禁断症状出るんと違うかな、と思って。」
「アホ、」ま里は苦笑した。「アタシ、そんなニコチン中毒と違うわ……そやけど、キミ。アタシが煙草吸うって知っとったんか?」
「うん……」え武がうなずいた。「ベランダでママが吸うとるん見とったから。」
「そう………」ま里は煙草をくわえて、え武に顔を寄せて言った。「ひと月くらい前に、兄ちゃん(え武の兄)に見つかってもたんや。」
「煙草吸ってるとこ?」
「違う……コンビニで煙草買いよったら、うしろに兄ちゃんが立っとったんや。」
「うわぁ……」
「あの男、人前やのに『女が煙草なんか吸うなや!赤ちゃんに悪いねんぞ!』って言いよって……アタシ、妊娠しとるんかいな……それから兄ちゃん、アタシのニオイチェックしたりするから、しばらく煙草吸うのやめとってん。」
「兄ちゃん、自分も外では煙草吸うん違うのん?」
「あの男はそういう奴やねん…… でもキミが味方についてくれたら、けっこう心づよいな。」
え武は照れてうつむいた。大好きなママが自分を「味方」と呼んでくれたことが嬉しかった。
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それから数日が経った黄昏時。
え武が浴室に入ったあと、ま里が続いて入って来た。
「ママ……」困った顔をしたえ武の前に全裸で立ったま里は、ニヤニヤと笑いながら煙草をくわえ火をつけた。
「今夜……」ま里が言った。「兄ちゃんが帰り遅いって言うから、遠慮なく煙草吸ってやろうと思って。」
「ひとりで吸ったほうが……」そういうえ武にま里は裸の胸を寄せ、え武の頭を撫でた。
「キミ、かわいいな…… キミ、この前自分が言うたことわかってないんやろ。」
「え?」え武は目を見開いた。(何言うたんやろ……)
ま里は浴室の床にえ武を寝かせた。そしてえ武の上にかぶさるように乗っかった。