投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

【その他 恋愛小説】

条の最初へ 条 0 条 2 条の最後へ

-1




深々と桜が舞っている。驚くほどゆったりと。音もなく。天使の羽のような花びらの散りざまは、まるで永遠を思わせる一瞬。
純一(あぁ、俺って詩人)雪のように積もった桜をざくざく、と踏みしめながら、ぼりぼりと頭をかく。
純一(冗談はともかく、根本的にこういうシリアスなノリが似合わないよなぁ俺)周囲を見渡しても遠近感がぼやけていて、終わりというものがない世界。狂ったように桜だけが舞っている。
純一(誰の夢だ、いったい?)当事者が見当たらない夢も珍しい。自我はあるが、フラフラと文字通り夢見ごこちで歩が進む。
・・・
――他人の夢を見せらせる。そんな不思議な体質を持つ俺だが、超能力者や魔法使いだなんて喜んでいられない。世間一般には、小説やゲームのように不思議な力を持っている人間は、かっこいいと言われている。どんなにつらい境遇でも、ありきたりよりは救いがあると――。そんな輩に声を大にして言いたい!
純一(他人の夢ほど面白くないものはないって…)夢なんてモノは元から支離滅裂なのに、他人様の夢なんて理解不能の極みだ。
自分の知らない人間だけで、説明不足のラブロマンスや、冒険物語を見せられて面白いはずもない。徳行野郎Bチームみたいに、タイトル通りのB級以下の中身だ。
純一(それにしても、おれが登場してるってことは、知人の夢だよな)しかも、これだけ俺が俺でいられるということは、日常的に接している人物ということになる。
純一(こんな詩的な夢を見る人物となるとそれほど数は居ないから…)指折りながら、明日折檻することになりそうな人物を数える。
純一(ふふふふふ……俺の安眠を妨害することが、どれほど恐ろしいか思い知らせて――)小指だけ立てた状態で声を失った。導かれるように進んでいた桜の林が開けて、桜の王様みたいな木が現れた。
純一(………でか)冗談を口にするが、見る者の心を揺らす不思議な雰囲気を纏っている。目の奥が熱い。声を失うような張り詰めた空気に、ふと、人の気配が混じった。あまりにも非現実的な景色に鳥肌が立つ。舞い散る桜に誘われるように、一人の少女が立っていた。
――その少女は天使でなければ悪魔だろう
夢の少女「ただいま、お兄ちゃん」
純一(…………)夢?
純一(あぁ、そうだ。夢だったなこれは)常識的な発言が、そもそもその通りなのだと苦笑いが浮かぶ。本当の名前は思い出せないけれど、こいつは幼なじみの少女だ。
夢の少女「見えないけれど、そこに居るよね?」
純一(あぁ)
夢の少女「うん。お兄ちゃんを感じるよ」
思わずストライクゾーンを踏み外してしまうような、心のこもった声。
夢の少女「これは夢で…多分、目が覚めたら何も覚えてないだろうけど……」少女の曇った顔を見るだけで心が痛む。しかし手を伸ばすことも、抱きしめてやることも、声をかけてやることすら出来ない……。
――決められた夢を見るだけの、出来そこないの魔法使い――
夢の少女「約束を思い出して」



それは…そう……。
冬の終わりと春の訪れを迎える前の夢。
この時点では意味のない――そう、ダ・カーポのような、はじまりと終わりの夢。
  つづく


条の最初へ 条 0 条 2 条の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前