I清香のバイブ-1
1TBのハードディスクを持って加藤清香の部屋を訪ねる。
「これ持って来たのですが取り付けるのは止めます。」
「どうして?」怪訝な顔つきで尋ねる。
その顔付きが可愛くて視線をそらしてしまう。
「ご主人がこのパソコンを他人に見せるのを嫌がると思うからです。
自分や自分の妻の閲覧履歴は他人には知られたくないでしょう。
ましてマッチングサイトやアダルトショップの閲覧履歴は見られたくない筈ですよ。」
真っ赤に顔を染めて「あの人本当に知っているのかしら。」
「ご存知の筈ですよ。それに奥さん宛のメールだって全部見られています。」
「私宛のメールなんて無いわよ。」
バックアップデータのメールごみ箱から取り出した1通のメールを見せる。
「これはアダルトショップから商品を発送しましたっていうメールです。
これで何かを買ったのがわかります。
こんなの他人に見られたくないですよね。」
「ああ〜そのメール削除した筈なのに。」
「削除されたメールがごみ箱に残るって小学生でも知っていますよ。
もし僕が清香さんの夫だったら何を買ったか知りたくて家中探しますね。
そしてそれを見つけた瞬間から夜の生活で男が優位に立てるのですから。」
(そう言えばあの人、恥ずかしがる私を無視して急に照明を消さなくなったわ。
それどころか69とか言う恥ずかしい体位を要求するようになったのもその頃だわ。)
「消してください。
すぐに消してください。」
「駄目ですよ。
急に消したら妻に悟られたと気づくでしょ。
そうなるとご主人も追求せねばならなくなります。
『なぜアダルトグッズを買ったんだ。
俺じゃ満足できないのか?』ってね。
このまま奥さんもご主人も何も知らない振りをするのが大人の対応だと思います。」
「あの人本当に下着の引き出しの奥からバイブ・・・あっ。」
「へぇ〜バイブを買ったんですか。
きっと見つけられていますよ。」
可愛そうなほど恥かしそうにうつ向いている。
「そうしましょう。
このままほっておけばご主人が何らかの手を打たれるでしょう。
外付けのハードディスクを買ってこられるか、データを整理するかだと思いますがね。」
「分かったわ。そうするわ。
でも主人の顔を見るのが怖いわ。」
「大丈夫ですよ。
ご主人はそんな嫌らしい清香さんも大好きなんだと思いますよ。」
「それとアダルトグッズの事誰にも喋らないでくださいね。」
「ああバイブの事ですね。
こんな事ここの管理人さんに知られたら大変な事になりますよ。
弱みを握られた若奥さんが2〜3人餌食になっているようですよ。
みんな引っ越しちゃったから確認できないんだけどママ友たちの噂です。」
「そういえばあの人1階のエレベータを待っている間、管理人室からいつも厭らしい目で私を見るのよ。
絶対に話さないでよ。」
「いいよ。清楚な清香さんがどんなバイブを買ったのか見せてくれたらね。」
「嫌よ。そんな恥かしい事出来ません。」
「じゃ管理人さんに教えちゃおーかな。」
「わかったわよ。
本当に誰にも言わないでね。」
箪笥の奥から黒い小箱を取り出して柴田に見せる。
「買うには買ったけれど使う勇気がなくて新品のままなの。」
確かにフイルムに包まれた未使用品の様だ。