後輩への思い-1
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結局、柚木が帰ってきたのち、柚木が駄々を捏ねて理央は泊まることになった。
前回のように理央を困らせてはならないと思い、加奈子は寝室の押し入れにある客用布団をリビングに敷いていた。
「ふぅ…」
理央と柚木が風呂に入り、寝室へと入ったのち、加奈子も風呂に入った。
顔に化粧水を塗り、髪を乾かしたのちに、ローテーブルを押しのけてカーペットの上に敷いた布団の上にぽつん、と座る。
紺色のパジャマ姿の加奈子はテーブルの上に肘を置いて、そこに顔を突っ伏した。
ーー理央は否定していたが、あんな風に他人の香水が、ただ一緒にいるだけで体に染み付くはずがないと加奈子はわかっていた。
佳織と抱き合い、汗をかくほど濡れたその体臭がシーツに染み込まねば、そんな風になるはずがない。
つまりーーー
(きっと本間さんと…………寝たんだよね……)
加奈子以外、隼人も佳織本人も全く気にしていなかったが、理央は堂々と一回りほど離れた佳織に敬語さえ使わなかった。
そして、聞いてしまった。
三人で食事をしたとき、佳織が電話をすると席を立っていた最中、加奈子がトイレに向かうと佳織は通話中で。
その通話の相手は理央であり、しかも「理央」と呼び捨てで呼んでいたのを。
それだけでも心が苦しくなってしまったのに、佳織の香水の匂いが、体に染み付いてーー
テーブルに顔を伏せながら、加奈子はぐっと唇を噛んだ。
付き合っておらず、「甘えたい」と言われ、ただ彼にとっては都合のいい会社の先輩。
佳織とも関係を結んでいるなら、おそらく年上が好きなのだろうと加奈子は思った。
そんなことを思っていると、ふすまが開く音がして、寝室から静かに理央が現れる。
加奈子は顔を上げた。
「あ、お風呂、出てたんですね。トイレ借ります」
「うん……」
しばらくして、理央がトイレから出てくると、キッチンの横を通り寝室へと戻るかと思いきや、加奈子の座る布団の上に座った。
「中村さん……出張のあとなのに、僕、さかっちゃったから。疲れてるでしょう。折角こっちに布団敷いたんだから、ゆっくり寝てくださいね」
「うん。そうする。大丈夫だよ」
右隣に座る理央に、加奈子は愛想笑いを浮かべた。
「今日も、ありがとうございます。ご飯、普段コンビニばっかりだからめっちゃ嬉しい」
「それは良かった」
加奈子はまるで柚木にするように、理央の頭に手を乗せて撫でてやる。
「僕、中村さんに子供いるってマジで知らなかったから……お昼、いつもカップ麺とかパンとかで、結構ツボだったんだけど……忙しかったらそうなっちゃいますよね」
「何それ、ツボって」
クスクス、と加奈子は笑った。
「いや、髪とか、肌とかこんなに綺麗で超気使ってるの分かるのに、ランチは外食行くわけでもなくってジャンクフードだからツボだったんですよ」
「ふふ、子供は給食だからね、自分の分だけ作るなんてことしないよ」