Mirage〜3rd. Seperation〜-1
学園祭という最も大きなイベントが終わると、生徒たちはどこか陸上競技場に戻ってきたマラソン選手のようだった。あとは冬休みを挟んで卒業式や終業式までの道のりを走破するだけなのだが、全く景色の変わらない、同じ場所を回るだけの毎日に面白みなどあるはずも無かった。中には、トラックの途中にハードルが置いてあったり、池が設置してあったりとまだまだそう簡単にゴールまでたどり着けない連中もいるようだったけれど。
僕と美沙が心を通わせるのには時間はあまりかからなかった。いや、ほとんどいらなかったと言っても良いだろう。
「うちは幸妃のことは春ぐらいからもう気になってたで」
という彼女の言葉を信じるならば。
とにかく、彼女は僕のどこに魅力を感じていたのかは知らないが、僕は彼女の持つ独特の世界観に惹かれていった。以前の僕なら目の前に存在するモノを、長方形としてのみ捉えていたのが、彼女と交わっているうちに、それは上から覗き込んだら円に見えることに気付いた。すると今度はそれを円柱として捉えることが出来るようになった、そんな感じで、僕は彼女を通じて、色々なものの見方ができるようになった。うまい言葉では言えないけど、そんな感じ。
僕は彼女に感謝しなくてはいけない。とてもじゃないけど、口に出しては言えなかったけど。
そんな彼女に変化が現れたのは、翌春のことだった。
冬頃から続いていた偏頭痛がひどくなり、通院生活が続いていたのが、ある日突然入院勧告をされたと言うのだ。
「大丈夫やで、ただの検査入院らしいしな」
電話の向こうで美沙はそう言って笑っていた。せやな、と相槌を打つ僕も一抹の不安を押し殺して笑った。