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Mirage
【純愛 恋愛小説】

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Mirage〜3rd. Seperation〜-7

周に説教を食らったその日から、僕は学校が毎日終わってから彼女の病院に通っていた。女子生徒からキモいキモいと言われ続けてきた英語の遠藤がついに見合いをすることになったこと、千夏の眉間の皺が増えたこと、帰ってきた姉からまたミサンガを貰ったこと、どんなに些細なことでも、僕は事細かに、時には誇張を交えながら美沙に話した。それが彼女のためになるなら、声が枯れようが、喉が裂けようがいくらでも喋り続けるつもりだった。

気付けば、美沙が入院してその日で丸3ヶ月が過ぎていた。

美沙の具合が日増しに悪くなっていくのは明白だった。けれどそれは、医学的に衰弱しているとか、新たに腫瘍が見つかったとか、そういった次元のものではない。簡単に言えば、疲れ切っているのだ。透き通るほど白く、健康的な肌も荒れ、それに呼応するかのように彼女の精神状態も悪くなっていった

「あの子も疲れてるんやねぇ」

面会時間の過ぎた人気の無い病院のロビーに、ため息交じりの声が響いた。美沙の母親は、両手で缶コーヒーを包み込んで持ちながら、疲れたように言った。僕は聞きながらぐい、と彼女と同じ銘柄の缶コーヒーを呷った。

「最近はうちとかお父さんとか、お医者さんとか看護士さんにもあたるようになってしまってなぁ。やっぱり不安なんやろうな」

美沙の母親、理沙子の目じりに、以前に会ったときよりも皺が増えていたように感じるのは僕の考えすぎだろうか。

「検査が終わったら、また新しい治療。その治療方法も何回変えたかわからへんし、あの子も怖がってる。神崎君といるときは本当に嬉しそうやわ」

と言って寂しそうに笑う筑波理沙子の目元は美沙にそっくりだった。

「そう言って頂けると、僕も救われた気分になります」

「堅いよぉ」

筑波理沙子が僕の肩を軽くはたくと、僕は缶コーヒーを噴き出しそうになる。軽く語尾を伸ばす喋り方。1文字違いとはいえ、こんなところまで美沙にそっくりだ。それがより一層僕の心に爪を立てる。美沙は、この小さな母親と同じ年齢まで、いや、もっと生きることは出来るのだろうか。少なくとも僕が死ぬよりも長く、生きていてはくれないだろうか。

「神崎君が、息子になってくれたら良かったんに」

「できればそういう話はお父さんにこっそり何回かに分けて言ってみてください」

僕が言うと、彼女はそっか、そうやね、と言ってはにかんだ笑いをうかべた。年齢を感じさせない、かわいらしい笑顔。その口調が過去形であることに、僕はあえて何も言わなかった。あんた、親なんだろ? あんたが信じないでどうするんだ? と言いたいのを堪えながら。なぜなら、その台詞は冗談のつもりで言ったのでは無かったのだから。


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