Mirage〜3rd. Seperation〜-5
空は、憎らしいぐらいに晴れ渡っていた。
グラウンドでは3年生のクラスの体育の授業が行われている。歓声が校舎に反響し、僕の鼓膜をも震わせた。
そういえば、美沙と初めて話したのも、こんな時期だったな、とふと思う。捻挫しても周囲を気遣って痛々しく笑っている彼女の姿はまだ僕の網膜に焼き付いている。そんなある意味では気丈な美沙が、僕の胸で泣いた。彼女が泣いた姿を僕は初めて見た。まだ1年という付き合いだが、それでも彼女の一番弱い部分が露になったことに、僕はショックを隠しきれない。
脳天気に流れる雲を眺め、僕は長いため息を付いた。
──タスケテヨ、コウキ。
どうしたらいいのだろう。
僕にいったい何が出来るのだろうか。
敗北感と虚無感、そして無力感。僕を支配する負の感情。まるで意思を持っているかのように僕の胸の奥を這い回る。まるで僕を嘲笑うかのように。
「何や、先客おるやんか」
聞き覚えのある声。
寝転んだまま、首だけをめぐらせて声の主を見た。やんちゃな感じの男子生徒が天井を一歩ずつ、上履きのスリッパの踵をすりながら近づいてきた。ちなみに、ここは屋上で、教室では今頃5限目の授業が行われている。
「ヤンキーが何の用やねん」
僕はその体勢のまま逆さまの不良生徒に声をかける。屋上。それは素行の悪い生徒の永遠の聖地。僕は違うけど。
「お互い様やろうが。2日連続で朝から授業ほったらかしで屋上で惰眠を貪る奴も立派なヤンキーやろ。それに、別にお前に用事あってきたわけちゃうわ。ついでに言うなら、俺もヤンキーちゃうしな」
そこはついでなんかい。
男子生徒──江川周作が僕の隣に腰を下ろすと同時に、僕はゆっくりと身体を起こした。
「昨日は千夏で今日はお前か。俺は未だに前のクラスから離れてへん気ぃするわ」
僕は鼻を鳴らした。
「ほんまか? もうすぐゴールデンウイークやのにな。まだ友達でけへんとか相当可哀想な人やな自分」
その言葉が言い終わらないうちに放った左のラリアットは周の頭頂部分を掠めただけに留まり、ひゅうっ、という音だけが虚しく響いた。
「まったく‥‥いきなりチャリ貸せとか言うから何をするんかと思えば‥‥」
周はやれやれ、といった具合に首を二、三回横に振った。
「帰ってきたら帰って来たで、鍵だけ下駄箱入れて礼も言わん。──一体何があった?」
僕は彼と目を合わせない。
「なぁ、周」
呟きにも近い声。それでも周の耳にはしっかりと届いていた。
「美沙、死ぬかもしれへん」