Mirage〜3rd. Seperation〜-4
「ああ」
僕は苦く笑いながらベッドのそばの椅子に腰掛けた。
「学校はどうしたん? まだ授業終わってないやん」
「周のチャリ借りてきた。委員長公認やし、別に問題ないやろ」
「‥‥委員長?」
肩をすくめて話す僕に、美沙が訝しげな視線を投げかける。
「千夏。まぁ、クラス違うけどな」
「全然あかんやん」
美沙が笑う。しばらくぶりの彼女の笑顔。自分の中の何かが満たされていく。
「そっかぁ」
美沙が笑うのを止めて俯く。その表情には憂いが満ちている。
「知らんうちに千夏ちゃんとクラス離れてしまったんかぁ」
そう。美沙は未だに新しいクラスメイトの顔を見たことが無い。何組かぐらいは連絡が行っているかもしれないが。
「‥‥美沙──」
「うちの病気な、手術してもなかなか完全に治らへんらしいねんか」
僕の隣の少女は、シーツを皺になるまで強く握り締めていた。僕はゆっくりとその背中に腕を回した。
「しかもさ、こんなのにかかるのなんて日本に1万人に1人ぐらいなんに」
ぽたり、ぽたりと、白いシーツに小さな斑点が生まれる。
「もう手術も治療も全部嫌や。普通に学校行って友達と喋ったり、好きな人と一緒に帰ったりしたい」
嗚咽を漏らしだした美沙の腰を抱き、その細さに驚く。僕の制服のブレザーを掴む力も、拍子抜けするぐらい弱々しい。もともと華奢な体つきの美沙だったが、今の彼女の身体には骨に辛うじて皮が引っかかっているような状態だ。指先から伝わる残酷な感触に、僕の目頭が熱くなる。
「助けてよ、幸妃」