秘密の社外業務-2
白のカットソーの上から、黒のジャケットを身につけ、揃いのパンツスーツを履いていた。
白のスプリングコートを羽織った佳織の、その全ての服を剥がしたくなる。
「佐藤くんとも久しぶりに会ったし、四人でご飯でも食べに行く?去年はホテルの部屋で、あたしが買ってきたもの、適当に食べただけだったし」
何も気にしてないような素振りで、佳織が去年のことを言う。
隼人と理央の二人の部屋に誘い、食事を取ったあと、そのままーー
「いや……ごめん、本間さん。今日、体調悪いみたいなんだ。僕、部屋に先に帰ってるから、三人で行ってきたら?」
何も気にしてないよう努めようと、普段通り佳織に敬語を使わず、答える。
「大丈夫か、理央」
隼人が心配そうに、自分より背の低い理央の顔を覗き込んだ。
去年、佳織を犯したことを後悔して、それを思い出すだけで正直、自分の浅はかさに吐きそうになる。
そして、自分の好きな女が、普段セックスしているであろう男と、しかも理央の親友とも呼べる隼人とーーいるところを見たくなかった。
さらには自分の寝た女が二人、顔を合わせている状況。
「大丈夫。寝たら何とかなると思う。昨日、あんまり寝られなかったんだ。隼人、ごめんね。中村さんも……すみません」
「ううん、平気。武島くんとも久しぶりに会えて嬉しいから、あたし、三人でご飯行ってきちゃうよ?」
「うん、中村さん、僕のことは気にしないでください」
*
ビジネスホテルに戻ったのち、シャワーを浴びてすぐ、理央は備え付けのバスローブを羽織ってベッドに横たわった。
そうしていると、枕元に置いたスマートフォンが振動する。
表示された名前を見るとーー「本間佳織」。
まだ食事中だろう。
わざわざかけてくれたのか、と嬉しくなり、一方で声を聞くのが怖くもあり、ベッドに横たわったまま、恐る恐るスマートフォンを耳に押し当てた。
「もしもし…」
ぼそっ、とした声で理央は電話に出る。
「もしもし、理央?今トイレにいて…………体調大丈夫?」
以前、二人の時は名前で呼んでとお願いしていた。
わざわざ、彼女はそれを実行してくれている。
そして、心配して電話をかけてくれたことに、四十前の男が泣いてしまいそうだった。
「本間さん……」
「声、元気ないじゃない。大丈夫?」
「大丈夫じゃない」
理央は泣きそうになるのをグッと堪え、だが正直に気持ちを伝える。
「ごめんね。心配させて」
「何で。大事な後輩だって言ってるでしょう」
あんなことがあったあとでも、理央のことを許してくれ、そして、理央の気持ちまで汲み取ってくれてーー
「僕、出張……来なかったら良かった」
理央はそう言ったことで、堪えていた涙が目から溢れるのがわかった。
「ーーもしかして、気にしてるの…?去年のこと。その後何度か会ってるじゃない。ひどいことされたなんて、もう思ってないよ?」