女らしく【番外02】『俺と彩と稲荷寿司』-6
この時、彩と俺は初めて口づけを交わした…
彩の唇は少し冷たかった…
「彩…」
切なくなり、彩を抱き締めようとした瞬間…
「な、何だ!?」
身体から自由が奪われる…
気付けば背中に札が一枚貼り付けてあった…
「何を…」
「すまぬ…稲荷…」
何でだよ!……家族じゃなかったのか!
「稲荷…私はもう長くはない……」
いつの間にか身体を起こしている彩が何かを持っている。
「馬鹿言うな!!彩は死なねぇ!俺が守る!他の異形からも病魔からも!!!
俺は彩が好きなんだ!!愛している!!!だから、彩は俺が守り抜く!!だから、死なねぇんだよ!!!」
その言葉に彩はいつもの笑みを零した…
「ありがとう稲荷…
けど…私に囚われてほしくない…
稲荷には死に逝く私に囚われて一人になってもらいたくない…
…稲荷にはきっともっと良い家族が出来るはずだ♪」
彩の目からスゥーと涙が流れている…
「ふざけるなぁ!
俺には彩っていうかけがえのない家族がいる!!それ以上の家族なんていない!!」
彩は笑顔のまま続けた…
「稲荷…私はお前を封じる…
再び目覚めた頃には、お前に相応しい新たな家族がきっと現れるはずだ…
その者と幸せになれ…」
「嫌だぁ!彩ぁ!やめてくれぇぇ」
床に倒れ込んだ俺の目からは彩以上の涙が零れていた。
「稲荷寿司…私もお前を愛しておるぞ…お前と夫婦になりたかった…」
彩は持っていた一本の竹筒を置いた。
「彩ぁぁああ!」
「オン アビラウンケン ソワカ……」
彩の真言が流れた…
思い出すのはそこまでだった……
次に気がついたのは林の中だった。
何故か木々の数は減っていたが、それでも空気は変わっていない。
自然と彩の家へと足が動いていた。
しかし…彩の家はもう無かった…
あるのは大きな館が一つ。
奇しくも『彩』の名を持った館だった…
「ぁあ…ああぁぁあああ…」
言葉にならない叫びが漏れる。