秘密の四角関係(6)―前編―-1
「あっちぃ〜なぁ〜」
屋上に寝転がった悠也は真っ青な空を睨んで呟いた。
始業の鐘はとっくに鳴っているのに、悠也はその身を起こそうとはしない。
彼は開校して以来、最も秀才な生徒であると同時に、最も手を焼く生徒でもあった。
授業をサボることは、もう常習のレベルに達している。
そのくせ遅刻・欠席・早退は未だにしていない、少し変わった生徒だった。
しかしその日はいつもと違ったことが一つあった。
「暑いですね」
悠也の言葉に答える者がいたのだ。
永井早紀。有美、友香に比べ、特別な関係になっている期間は一番長い。
しかし、悠也のことを一番分かっているというわけでもなかった。
裏と表。それは誰もが持っていて当然のものだ。
早紀の知っている中で、悠也は最もそのギャップが激しい人物だ。
早紀にはそれが分かっていた。その上で、淡い想いを抱くようになってしまったのだ。
有美と友香が秘密の関係を形作る点に入った時、早紀は焦りばかりを覚えていた。
悠也が二人に時間をかけて調教するそのことに、早紀は理解はしているが、どうしても嫉妬の念を抱くのだった。
もちろん美穂だって調教を受けてはいるが、有美と友香には、美穂にはない悠也への想いを感じられて仕方なかった。
そしてその結果、早紀は今悠也とともに屋上にいる。
久し振りの二人だけの時間。早紀にはとても新鮮に感じられた。
「だから、普段は敬語じゃなくてイイって」
悠也は微笑んで早紀に告げる。
早紀はキャラの入れ替えが曖昧だ。クラスメイトに敬語なんて、端から見れば明らかにおかしい。
しかしなかなかメリハリがつけられないのか、早紀は皆の前ではあまり悠也と話さないようにしていた。
「すみません」
「いや、だからぁ…」
悠也はそこまで言って苦笑した。
雲が浮かんでいない空。動いている物が目に入らないと、まるで時間が止まっているかのような錯覚に陥る。
早紀は、身を起こしてフェンスにもたれかかった悠也に身を寄せた。
早紀は何も言わない。悠也は何も感じ取らない。
ただ、止まってしまったような時間が流れていた。
もしも永遠があるならば、この瞬間がそれになればいいのに…早紀はそう願っていた。
教室に差し込む暑い日差し。生徒は皆うなだれていた。
その中で、有美と友香は胸を押しつぶされそうな、気が気ではない状態だった。
悠也の姿がないのはよくあることだ。それに加え、早紀の姿もないのは今までに一度もない。
悠也と早紀が一緒にいるかどうかはわからないのに、有美と友香は二人が同じ空間にいると決めつけていた。
悠也は、調教する時にはなるべく三人に伝えるようにしていて、それは有美と友香にも何となくわかっていた。
にもかかわらず、今は早紀だけが一緒にいるということは、おそらく早紀が自ら悠也の所へ行ったのだろう。
調教されるため?そうでないとすると………。
黒板の数式を直視しているものの、思考回路は全く別の答えを探し求めていた。