秘密の四角関係(6)―前編―-3
「あ、ごめんなさいね、勉強の邪魔しちゃって。じゃあ頑張ってね」
美穂は洗濯物を抱え直すと、リビングを出て行った。
「友香、どういうこと?」
有美は手を止め、友香を問いただした。
「どういうことって、そう言うこと」
友香は有美に目もくれず、カリカリとノートに文字を書き続ける。
「でも、友香が休校に気付かないなんて有り得ない」
早紀はそう言いながら手を止め、友香に目線を遣った。
「そうね。確かにその通り」
友香はサラリとそのように言った。相変わらず、手は動いたままだ。
小さい頃から「学校が休みになる」と言うことに関して、友香はとても敏感だった。
特に天気には一際敏感で、台風上陸の前日などは「明日休みかも〜」とよく言っていた。
今年の梅雨は雨量もさながら、勢いや風なども強かったので、友香が天気予報をチェックしないということは、それこそ夏に雪が降るくらい有り得ないことなのだ。
「見たんでしょ?その日、天気予報」
有美がじわりと詰め寄る。
「見たよ」
友香はすんなりと事実を言った。その素直さに、有美と早紀は微かに身を震わせる。
自分は真実を隠そうとしているのに、友香がやけにアッサリ本当のことを言ったからだ。
二人は友香に、妙な不信感と僅かな恐怖を感じた。
それに比べ、友香は至って平生だ。いや、平生と言うよりも、寧ろ決意を固めていたと言った方が正しいかもしれない。
友香自身、いつか有美や早紀があの日のことを耳にする時がくると思っていた。
二人と仲が悪くなるのは避けたいが、かと言って初恋の成就を犠牲にしたくはなかったのだ。
そして悩み抜いた結果、自分の胸の内を正直に告げようという結論に至ったのだ。
「じゃあ、なんでこの家に?」
早紀が徐々に核心に迫っていく。
「悠也君に会いたくなったから」
友香は淡々と答えていく。しかし、確かに鼓動が早くなるのを感じていた。
友香のみならず、有美や早紀の鼓動も激しくなっていた。
心臓の動きを確かに感じ、縮む度に耳の先端にまで血流が流れ込むのがハッキリとわかる。
「それは…つまり、性欲が………?」
有美は言葉に詰まる。
何となくだが、これ以上友香の気持ちを知るのが嫌だった。
それとは裏腹に、口は言葉という音を発してしまう。
「違うよ?だって…」
三人の間に緊迫した空気が流れる。
何も考えられない。
やけに喉が渇いて、そのカラカラになった喉を生唾が通っていった。
「私は…………」
友香はピクリとも動かなくなっていた。いや、動けなくなっていた。
二人の視線がやけに痛い。
「悠也君が好きだから」。この言葉を言うだけなのに、何故こんなにも緊張しているのだろう。
本人に言うわけではない。友だちになら、もっと楽に伝えられるハズだ。
でも、それができないのは、お互いの痴態を目の当たりにしている仲であり、一番の問題として、三人が同じ人を好きになってしまったからだろう。
でも、このままだと前に進めない。他の二人の目を気にしてコソコソするくらいなら、いっそ公にして堂々とアタックしたい。
………友香の気持ちが固まった………。
静かに顔を上げ、有美と早紀にしっかりと伝える。
「私は、悠也君が好きだから」
「………」
「………」
友香の緊張の糸がプツッと切れた。