秘めたる想いを知る時-3
遥太は乳房から顔を離すと、呪文のように名前を連呼する。
「小夏さん‥‥!小夏さん‥‥!小夏さん‥‥!」
興奮しきった様子の彼が口にすれば、それは呪文というよりはもはや呪術そのものだ。
「ううっ‥‥!ど、どうしてこんなことするの‥‥!?」
身も心もぐちゃぐちゃになった小夏は、涙に潤んだ瞳で遥太の顔を睨みつけて訊ねる。すると、途端に目の前の男子高校生は血走った目で怒鳴る。
「それを貴女が言うんですか!?元はと言えば人の夢にまで出てきて精を搾り取りに来た小夏さんが原因なんですからね!小悪魔な衣装で、僕のことを惑した貴女が!」
両方乳房を両方の手で強く鷲掴みされる。
「ひぁんっ!い、一体何の話なの!?あぁんっ!」
遥太の話は小夏には全くの心当たりが無い。彼女からすれば八つ当たりも甚だしかった。
だが、遥太は尚も強い口調で続ける。
「あれからずっと僕の心に入って来たのに!なのに僕は貴女の事を全然知らなくて!最近、名前を蘭さん経由で知っただけで僕は嬉しかった!それなのに貴女とセックス出来るチャンスが来るなんて!それでも僕は悩んだ!貴女が既婚者の人妻だから!守るべき家庭があるって分かってたのに‥‥!」
前半の恋い慕う事とは打って変わって言葉の後半の遥太は、想い人が人妻だという事で悩んだ事をぶち撒けた。
「よ、遥太くん‥‥」
小夏は自分の事を想うが故に暴走させてしまったこの男子高校生に対して複雑な思いに駆られる。やっている事は他ならない悪い行為だ。
けれど、この男子高校生から好意を寄せられた事に関しては小夏は少なからず胸中で動揺していた。
そんな小夏の心に更に響かせるように遥太は言う。
「僕は基本的に人が嫌がるような事はしたくありません。けれど、それで欲するものが手に入るのなら僕は自分の欲望に素直になります!」
遥太は小夏のネイビーブルーのストレートデニムを合わせる金具のタックボタンに手を掛けた。
「ま、待って‥‥!」
止めなくては。この子を止めないと今のままでは一線を超えてしまう。
まだ今なら戻れる。また何時もの日常に戻れる。だから抵抗して、拒絶の意を示さなくては!
そう小夏は胸中で考えた途端、
――それは嫌だ。
遥太ではない。他ならぬ心の中の自分がそう言って小夏は思わず固まる。
"嫌だ"というのは最初これからの行為を嫌がっているのだと、最初に思った。
けど、それは違った。嫌なのは元の何もない虚無の夫婦性活。そこに戻るのが、小夏にとっては嫌な事であると知っていた。
「(だから、目の前の若い男に身を委ねるというの‥‥!?)」
自分で自問自答する小夏。しかし、今は答えが出ない。自分で自分の思いが分からない。
その間にタックボタンは外されて、そのまま股間のファスナーまで下ろされてしまう。
「デニム、下ろしますよ?」
遥太は一応確認をしてからストレートデニムの両端を手で持ってずり下ろす。臀部から足首の下へと。慣れない手つきもあってか遥太が脱がすには足首までで、結局最後は小夏本人が自分で脱ぎ捨てる事になった。
これで小夏の身を守るものはショーツ一丁。全くもって心許ない。
その水色のショーツは割れ目に当たる部分を中心としてじんわりと濡れている。
「やった‥‥!下の方も触らないで感じてくれたんですね‥‥!」
遥太は達成感で素直に喜んでいた。さながらテストで良い点数を取れた時のようだ。
一方の小夏は直接そんな事をはっきりと言われて恥ずかしさでその場から今すぐに逃げ出したい気持ちだったが、自由が利かない体では到底無理な話である。
しかも、その恥ずかしさを上回る事を今から男子高校生にされようとしている。
それを示すように、遥太はソファーの上でずりずりと体を近付けた
「ま、待って‥‥。このまま私だけ全裸だと恥ずかしいから、遥太君も脱いで‥‥」
このまま挿入しかねない遥太を一時牽制する意味を込めて小夏は頼んだ。
「は、はい‥‥!」
興奮している筈の遥太は意外にも素直に従い、ベルトのバックルをカチャカチャと外し、ファスナーを下ろす。中のトランクス、ズボンを少しもたついた動きをしてから両方を下ろすとソファーの下へと脱いで投げ捨てる。
そして、上もワイシャツと中の無地のTシャツも脱いで同様にソファーの下へと投げ捨てた。ついでに脱ぐ必要は分からない靴下も投げ捨てている。
遥太の体つきはお世辞にもしっかりしてはいない。中肉中背で腹筋も割れていない。逞しい肉体とは程遠い。
けれど、若い男子高校生の全裸を見た小夏はバッチリと反応していた。しかも、彼の下半身のイチモツが勃起している事に気づいたら尚更であった。
遥太のペニスは仮性包茎だった。勃起してもまだ皮を被っている。それを見た小夏は思う。
「(皮剥けたら、どうなるんだろ‥‥?)」
遥太はそんな小夏の心境を知ってか知らずか勃起した仮性包茎のペニスの皮を剥いて亀頭を露出させる。
「あ‥‥!」
そそり立つ若い男の竿の全体図を見て、小夏は目を奪われる。あれがこれから自分の中に入るのかと思うと、駄目だと思いながらも期待をせずにはいられなかった。