『鬼と、罪深き花畜』-10
「ミツル、おまえはこういう縄の緊縛が嫌いじゃないはずだ」
「嘘っ。縄なんて、好きじゃないっ」
「だったら、もっと抵抗してもいいはずだ」
「だって、これは先生の絵のモデルになるためでしょ」
先生は僕の極端にクビれたウェストにまた別の縄を巻き付けていました。三重か四重に巻き付け、ウェストを更に細く絞りあげるのです。まるで蜂の身体みたいにクビれて、折れてしまいそうなほどの細さにまで絞めつけるんです。
「ああっ。き、きついですっ」
「ミツル、もっと泣け。涙が涸れるまで泣いてみろ」
「んふっ。ンギギ、ギッ。嫌あーっ」
何と言うことでしょう。ウェストを絞めあげた縄がゴムのショーツの上から股間に喰い込み、ヒップの谷間を割ってT字形に絞めつけてきたんです。僕の折れ曲がった肉茎はゴムのショーツに圧迫され、その上に縄で絞め潰されたんです。股縄と言うそうですが、股縄が六本も谷間を走って、僕の下腹部は真っ赤な縄のフンドシを締めたような格好にされたのです。
身動き出来ないんです。内股になって、お尻を突き出したような無様な格好でなんとか立っているのが精一杯でした。少しでも腰をクネらせると、股縄が谷間に喰い込んで敏感な亀頭を刺激するんです。亀頭にいくら刺激を受けても、勃起なんか不可能な状態です。でも縄が柔肌にきつく喰い込んでいるせいで、身体は少しの間もじっとしていられないんです。
「あんっ、こんなの、非道いっ……ダメッ。ダメなのおっ」
長い髪を振り乱して、涙にむせびながら先生に訴えるしかありません。
「もっと哭けっ。ただ美しいだけじゃない、凄い女の貌になってきてるぞ、ミツル」
先生はそう言って、緊縛された僕の裸体を高さ一メートルほどのモデルが立つ円形テーブルの上に運び上げたんです。そして、天井の鋼鉄製の鉤から垂れている縄を、背中に回した両腕を縛っている縄に連結させて僕の身体を吊り下げてしまったのです。バランスを崩して転倒する恐怖はなくなったのですが、爪先でなんとか立っていられる状態まで吊り上げられたんです。
「いいぞ、ミツル。おまえはやっぱり俺が描きたかった女だ。こんな堕天使のような官能美を全身から溢れさせる女なんて、どこを探してもいるもんか……自分でも見てみろ。自分の妖艶な姿に見惚れながら、縄の快楽に溺れてろ」
先生は大きなスタンドミラーを運んできて、縄で吊り下げられた裸身を僕の視界に入れてくれたのです。
「あ、ああっ。す、凄いっ」
涙で霞んでいる目で、僕も見たんです。先生が昂奮しているのが納得いくくらい、その女体は無惨で、痛ましくて、儚げでいて、妖しくて、猥らだったんです。異様にクビれた腰をクネらせながら、乱れ髪の妖美な顔にトロトロと官能の炎を燃え上がらせていたのです。
「先生っ、こんな猥らな僕の裸……早く描いてっ。何枚も描いてっ」
デッサンすることを忘れて陶酔したような目で僕の裸身に熱い視線を纏わりつかせている先生に、涙声で叫んでいたんです。