クラスメイトの母親-1
手白木颯人の住むアパート貸出荘がある住宅街、荒箕田。隣同士という程に距離は近いわけではないが、柿沼家も確かにこの住宅街の中にある。
颯人はクラスメイトの柿沼亜沙子に案内される形で、彼女の家の前までやって来た。
「ここよ、私の家」
自信満々に指差した先にあるのは周囲にいくつかの家々が並ぶ中の一軒の家。見て明らかに有名建築家が建てたとは思えない、紺色の四角い屋根のニ階建ての家だ。
「あ、そうなんだ。この家が‥‥」
と、颯人はまるで初めて来たような口ぶりで言うが、彼にとってこの家に来るのは覚えている限り5回目である。勿論、亜沙子にとっては初めての家の案内になるのだが、彼女のお母さんと肉体関係を持っている颯人からすればそれだけの回数になる。
当然、目の前にいる亜沙子がそれを知っている筈はない。
「でも、本当に来てくれるなんて意外だったな。牧田君から聞いたんでしょ?」
亜沙子の問い掛けに、慌てて颯人は口を開く。
「え?あぁ、そうなんだ。遥太の奴が教えてくれてよ」
「で、その牧田君は?」
「今日は別行動なんだよ。だから俺だけ来たってワケさ」
「そうなんだ‥‥」
亜沙子は颯人に聞こえないような小声でラッキー、と言って小さくガッツポーズを取る。
「じゃあ、今日は二人っきりだね♪」
意中の人と二人っきりというシチュエーションに心底嬉しそうな視線を向ける亜沙子だが、
「あぁ、そうなるのかな」
そんな彼女から鬱陶しさを既に感じて、思わず視線を逸らす颯人。
亜沙子の知らない間に、距離感は生まれつつあった。
と、家の前でやり取りをし合っている二人の前で、玄関のドアが開いて一人の女性が出迎える。
「お、いらっしゃい颯人君」
挨拶してきたのは170センチくらいはありそうな黒髪のベリーショートヘアの勝気のな印象の女性だ。無地の藍色のトレーナーにカーキ色のストレートパンツ。格好こそ色気はないが、胸部は服越しでも膨らんでいてアピールポイントは隠しきれていない。
彼女の名は柿沼紗月(かきぬまさつき)。年齢は34。高校在学中に付き合っていた彼氏の子を妊娠して、卒業後に婿入りした彼氏と式を挙げて、その後亜沙子を出産した。現在は専業主婦である――というような基本的な彼女のプロフィール情報は、本人から聞いていたので颯人は予め知っていた。
「こんにちは紗月さん」
当然のように名前を知っているので、名前で呼び合ってお互いに挨拶を交わす。しかし、これは初対面にあるまじきミスだった。
「あれ?ママも手白木君も名前知ってるの?」
亜沙子は不思議そうな表情で両者の顔を見比べる。
二人はしまった、と胸中で同時に思ったが、表情には出さずにすぐに笑顔を貼り付けた。
「前に買い物帰りに会った事があって、それで面識があったんだ」
「そうそう」
颯人の会話に合わせ、頷く紗月。
正確にはこの町内を適当にぶらついていたら、偶然にも見つけた上玉で颯人が家まで押しかけ、言葉巧みに口説き落として関係を持つようになったのだ。
「そうなんだ‥‥」
亜沙子は一応この説明で納得するが、
「でも、いくら知り合いでも私からしたら、自分の母親と同級生の男子が下の名前で呼び合ってるなんて何か変だよ」
自身で感じた違和感を素直に指摘した。
「‥‥そうかな?知り合いだったらそれもありじゃね?」
「そうだよね。知り合いだったら、名前で呼び合ったりするだろうし、ママは全然気にしないよ」
颯人と紗月は何でもない事のように言った。
亜沙子は妙な二人だけの世界観に違和感を感じながらも、気を取られる事なく玄関のドア前の二段ばかりの小さな階段を上がって行った。
「とにかくあがって。ママ、くれぐれも私達の邪魔しないでよね」
先に家に入る前に釘を差しておき、ドアを開けて家の中へと入る亜沙子。
「はいはい」
口では娘の言葉に納得しながら、颯人の方へと視線を向ける。
「だってさ、颯人君?私は邪魔しちゃいけないんだって」
「紗月さん、お預け食らって我慢できます?」
「人をまるで理性のない獣みたいに言わないでくれる?我慢出来るよ、少しくらいならね」
そう言うと閉じた玄関ドアを開けて、亜沙子の母として颯人を出迎える。
「改めて、いらっしゃい手白木颯人君。歓迎するよ」
「ありがとうございます」
颯人は招待されたクラスメイトの友人として、柿沼家の敷居を跨ぐ。そして、紗月の横を通り過ぎる際に一言だけ告げた。
「指示は娘さんの部屋に行く前にスマホに送りますから、オナニーしながら待機して下さい」
紗月は一瞬だけ目を見開いたが、その後は黙って頷いた。