クラスメイトの母親-6
事を済ませた颯人が、トイレから一階にある柿沼夫妻の寝室まで"大きな荷物"を運び終えて家の中を歩いていると、階段の手前で亜沙子と鉢合わせした。
「あれ、手白木君？」
「よっ」
颯人は手を小さく挙げて、自分の存在をアピールした。
「さっきから捜してたんだけど、今までどこに居たの？」
「トイレで用を足しに行った後で紗‥‥いや、柿沼のお母さんに頼まれてちょっと"大きな荷物"を運んでてさ」
亜沙子の疑問に答える颯人。
「そうなの？」
「あぁ、一階の部屋まで運んでって言われて運んだんだよ。大きな荷物をね」
颯人は少なくとも嘘は言っていなかった。寝室の部屋まで運んだのは事実だから。ただしそれは"大きな荷物"という抽象的な物ではなく、一人の女性をであるが。
「ママったら手白木君にそんなことさせてたなんて‥‥！」
亜沙子は娘の想い人の邪魔をしたのが母だと知って怒り心頭だ。
そんな彼女の様子を見た颯人はすぐにフォローする。
「まぁまぁ。日頃の家事とかでだいぶ疲れてるみたいだからさ、ゆっくりさせてあげなよ」
他ならぬ颯人に言われてしまえば、亜沙子は文句を言う事も出来ずに今ある怒りを鎮める他ない。
「うーん、手白木君がそう言うなら‥‥許そうかな」
と、亜沙子の機嫌が戻るのとほぼ同時に、ぐーっと誰かの腹の音がその場で鳴る。
「何かお腹空いちゃったな。お菓子とかある？」
鳴らした張本人、颯人がお腹を手で擦りながら亜沙子に尋ねる。
「うん、台所にあるよ。今飲み物と一緒に持って来るから二階の私の部屋で待ってて」
「おぅ」
颯人は短い返事の後で階段を上がる。そして、亜沙子が台所に駆け出して行くのを一旦歩を止めて階段の上から遠目で見下ろし、
「柿沼も紗月さんと同じくらいの年齢の姉妹とかなら興味の一つも湧くんだが‥‥やっぱり親子丼は食えないな」
などと失礼なことを言ってから、再び階段を上がり始めた。