続・花ホテル〜first night〜-6
―――――コン、コン、コン・・・・・
「・・・・・・どなた?」
「・・・・・佐々木です」
「・・・・・どうぞ」
佐々木によるノックからドアを挟んでそれぞれ言葉をかける2人。
互いに一拍以上の沈黙を伴っているところに、共通した緊張感を察することができる。
佐々木の右手が杏子の部屋のドアノブにかかり、ゆっくりと回していく。
鍵のかかっていないドアは金属が軋む音もなく、すんなりと内側へ開いていく。
室内の明るさが目に入り、自分の身体が入れるまでドアが開ききった時、
佐々木はそのまま室内に滑り込んでいた。
廊下には人の気配がなかったにも関わらず、つい自分のしていることに関して人目を気にする後ろめたさが佐々木は覚えていた。
だが彼の後ろめたさも部屋の中からドアを後ろ手に閉め、眼前に立つ杏子に視線を動かしていた時には無くなっていた。
室内に漂う女性特有の籠るような香り。
室内に据えられた花瓶の中の花とも違う独特な香りが、杏子のものであることを無意識のうちに察した時、
佐々木は今まで嗅いだことのない香りそのものに、杏子の女としての別の一面を見た思いだった。