続・花ホテル〜first night〜-5
$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$
「・・・・・・行くか」
腕時計が午後8時53分になったのを確認し、佐々木は自室のソファから腰を上げた。
今の佐々木の出で立ちは普段のホテル勤務の際の寸分の隙のないスーツではなく、仕事外でくつろぐ時のもの。
シャツのボタンを上から2個外して首元を露にし、腕捲りしている姿は普段のホテル勤務中には絶対に見せなかったもの。
その日はあえて夕方前には残業を切り上げて自室に戻り、用意していた軽食で夕食を済ませると手早くシャワーを終え、こうして時間になるまでソファに身を委ね、落ち着かぬ時間を過ごしていたのである。
自室を出てから杏子のいる部屋に向かう間、行き慣れた筈の僅かな距離が佐々木にとって妙に長く感じられた。
(遂に・・・・・・)
数年のホテル勤務を経て心の中で育んできた杏子への愛が今夜結実する。
自らの輝かしい将来を棒に振ったことで得たこの瞬間に、
佐々木は1人の男として全身、いや下半身が熱くなっていることを自覚していた。
これまで何度も目の当たりにした女主人の肢体が今夜自分の手の中に。
そうした興奮は杏子の部屋の前に立った時には流石に落ち着いていた。
もっとも杏子の姿を目にしてしまったならば、その落ち着きも再び波打つことになろうが―――――――