『僕っていけない女の子?』-2
『パパ、ママ、ごめんなさい。
薫はやっぱりこのまま生きていけない。
天国に行って、男の子になりたいの。
笑って暮らせる日が欲しいの。
も少し、わたしのこと、分かって欲しかった』
走り書きの用紙は女の子が使うようなピンクの花柄のメモ帖だった。
(僕は男じゃないか。それなのに……天国に行って男の子になりたいだって?)
頭が変になりそうだった。記憶は何も無い。思い出せることはゼロ。空白の過去。
名前すら覚えていなかったけれど、自分が男の子だという確信だけはあった。自然に口から出る言葉も「僕」だ。
どういう訳か、みんなして僕のことを女の子に仕立て上げようとしているのが不思議でならない。
翌日、ベッドに拘束されたままの僕は朝一番に看護婦に手鏡を持ってきてもらった。
看護婦がかざしてくれた手鏡に映る顔は、女医が画像で見せてくれた救急搬送された時の少女にそっくりだった。繊細な顔立ちで、病人のような蒼白い肌色も一緒だ。
今は頭に包帯をグルグルに巻かれていて、ヘッドギアのような検査機器を付けられているから、髪型までは分からない。
「これが僕の顔?……ねえ、僕って……ほんとに女の子なの?」
真面目な顔で僕が尋ねると、看護婦は笑いをこらえることが出来ないらしくて、吹き出してしまった。
「あっははっ。何、変なこと言ってるのよ」
看護婦は大笑いしてお腹を押さえながら、不思議そうに僕を見るだけで、真面目に答えてくれなかった。
「だ、だって……みんなして、僕は女の子だって……」
「だって、あなたは正真正銘の女の子よ。オチンチンだって、無いわよ」
「ほ、ほんとに?」
「じゃ、鏡で見てみる?」
若い看護婦に見られる恥ずかしさをこらえて、僕は小さく頷いた。
看護婦は僕の患者服の裾を半分捲り上げて、尿管に繋がっているらしい細いパイプが挿入されている股間をチラッと見せてくれた。
あるはずのオチンチンが股間から消えてしまっていた。
「ええっ?」
間違いなく、女の子の股間だった。
どういうことなのか理解出来ない。
「……僕って、身体だけは女の子だったのかな?」
僕にとっては深刻な疑問なのに、看護婦は大笑いするだけで何も答えてくれなかった。
自分が何者でどんな過去を持っているのか何も分からない空っぽの自分が不気味でならない。それ以上に不気味なのが、女の子の顔と身体を持っているという今の僕の姿だ。
手鏡で見せられた自分の顔や性器にショックを受け、それを引きずっていた。受け容れがたい奇妙な事実を突きつけられ、ただただ戸惑うばかりだ。しかも僕の股間はツルツルに光っていて、生えているはずのオケケも無かった。
午前の回診に来た黒縁眼鏡の女医に尋ねた。
「先生……おかしな質問をしますが、僕は男じゃないんですか?」
「宮内さんはまだ頭が混乱しているのよ。焦らずにゆっくり回復を待つことが大事よ」
女医は冷ややかに、馬鹿にしたような小さな笑みを浮かべただけだった。