第八章 上書き-1
第八章 上書き
「上書き・・しましょう・・・」
藤本さんがポツリとつぶやいた。
「上書き・・・?」
泣きはらしたを目蓋をこじ開けるようにして、声の先を見た。
「そう・・・
過ぎてしまった事実は、変えられない」
低い声が静かに響いている。
「あなた・・映見さんは・・・」
急がず、ゆっくりと。
「とても・・とても、つらい思いをした・・・」
言葉を探しながら。
「私から、なにを言っても・・・
気休めにしかならない・・・」
懸命に答えを出そうとしてくれている。
「だから・・今は・・・」
うなずく仕草は私のためか、それとも、自分自身のためであろうか。
「記憶を・・重ねるのです・・・」
ようやくたどり着いた答えに、それでも、疑問を抱きながら。
「その時以上の・・強く・・激しい・・・」
私を説得しているはずなのに、逆に救いを求めているようだ。
「体験・・興奮を・・・」
私が微かにうなずく仕草を見せると、ホッとした表情になった。
「本当の・・記憶にしてしまうのです」
沈黙が、再び支配する。