第八章 上書き-2
「それ以上の・・・?」
ようやく口に出た言葉は、それだけだった。
繋がった言葉の意味を理解するまで、何秒か、かかった。
それでも、何をすべきかまではわからなかった。
「映見ちゃん・・・」
かおりさんが、抱きしめていた腕の力を強める。
「いいの・・・・
すぐに、理解なんて出来っこない・・・」
視線は夫に向けている。
「でも・・・今は・・上書き・・・
それだけを・・覚えていて・・・」
かおりさんの腕の温もりに、私の思考が溶けていくようだ。
(あたたかい・・・)
それだけが、頭に浮かんだ。
(うわ・・書き・・・)
言葉の断片が、耳の奥に響いていた。