第一章 不条理なプロローグ(画像付)-3
(いやっ・・・)
反射的浮かんだ映像は、人気の無いプラットホームだった。
田舎の駅特有の風景は、同時に無法地帯の如く危険に感じた。
現に今日、電車を降り立った時も、不良じみた数人の学生がベンチでタバコを吸い、たむろしていた。
注意する駅員等もいなく、映見をジロジロ見る視線が怖かったのを覚えている。
膨らむ悪い想像に、映見は戸惑いながら辺りを見回した。
そばにある女子トイレに飛び込もうとしたが、隣の大きなステンレスの扉に目がいった。
身障者専用トイレの扉は頑丈そうで、この中に入り、カギをかければ安全な気がした。
一瞬、迷ったが、飛び込むように中に入った。
重い引き戸を閉めた瞬間、ドッと汗が噴出してきた。
「はぁっはぁっ・・・はぁっ・・・」
震える指でカギをかけ、扉の取手をつかんだまま荒い息を吐いていた。
手洗いの鏡に不安そうな自分が映っている。
(少し、時間をつぶした方がいいみたい・・・)
東京へ戻る特急電車の発車時間までは、まだ30分以上もあった。
ここは鍵もかかり安全だし、身障者の人が利用する可能性も少ないだろう。
バッグから化粧道具を取り出し、ルージュを引きなおしながら鏡の中の自分を改めて見つめた。
(少し、やせたかしら・・・?)
あどけなさが残る表情はまだ十代のようで、瑞々しい肌を保ってはいたが、最近の睡眠不足気味で元気が無かった。
(裕君・・・)
夫の顔を思い出しながら、ここ数日続いている悩みにため息を漏らした。