恋愛宣言-1
雪の上で動かない猫。
「にゃあ…」
寒いの?
あたしはそっと猫を抱き抱え、ちょっとでも温かくなるように、ギュッとした。
「春嬉は何で彼氏いないのかしら」
「知るかっ」
なんで母親のあんたに、あたしの恋路心配されにゃならんのだ。
「顔はそんなに悪くないと思うんだけど…」
「だったら今頃、愛する彼氏とラブってるし」
顔…顔ねぇ。自分じゃあ、そんなん分からない。ただ問題があるとすれば、この性格…。
「春嬉はちょっとサバサバしすぎじゃない?」
哀れんだ瞳で私を見つめる母。そんな母に、あたしは自分の中の最高スマイルを見せてやった。
「そうね。あなたのブリっ子DNAが少しくらい、あたしに流れてほしかったワッ!」
…所詮、あたしの皮肉は母には届かないらしい…。
「全くね♪」
くっそぉ〜っ、嫌味な母親ぁぁ!!
あたし、秋葉 春嬉。取りあえず恋をしたいと願う高校二年生!
恋した数は数知れず、フラれた数も数知れず…。よって年令=彼氏いない暦。…って、あたしは秋葉系かっ。ぁあっっ!あたしは『秋葉』だったぁぁっ!!
なんて、寒いことしてる場合じゃねぇのよ。
こんなことばっかしてるから、男も寄って来ないのかしら。ドン引きかしら。『痛い子』かしら。あーあ、こんなあたしでも好きになってくれる、ボランティア精神の強い男性はいないのかしら。…いないか。
さっきからスベってばっかなあたしだけど、実はすごくロマンチックな恋がしたい。気紛れ神様のちょっとした悪戯で、二人は意図的に出会わされたのだ…的な、素敵ハプニングが起こらないかと、日々思っている。
二人が結び付いたのは偶然?それとも必然?嗚呼、あたくし達は運命なのかしらぁ〜ん!なぁーんて、言ってみたいもんだ。
「は…き、は…るき、春嬉?春嬉!こんの腑抜け面っ!!」
不意におでこに激痛。
「…いったぁ〜…何!?」
あたしは亜美の本気デコピンで、現実世界に引き戻された。
「顔。超ブッサイク」
「あ、またやっちゃった?」
「おぅよ」
頬杖をつき、呆れたようにあたしを見ながら、亜美はスプーンを口に運ぶ。
ここが、食堂だってこと忘れてた。
「全く、二人の時ならいいけどこういう公の場でそういう顔すんの、やめてよねっ。アタシが恥ずかしいっつぅの」
「仕方無いでしょうが!魂だって、一人旅したい時があるんだよ」
あたしは味噌ラーメンを勢い良く啜った。
「そんな意味分かんないこと言ってるから、いつまで経っても」
「言うなぁーっ!」
あたしは、耳を塞ぎ「ぁ〜〜〜…」と小さい声を発し、外界の音を封じた。
目の前に座っている亜美は、あたしを哀れんだ瞳で見つめる。これ、この前のお母さんと同じ目だ!
オムライスを黙々食べて、お茶を一口飲んだその時、亜美が!
―プフーーーッ!
「ぁ〜〜〜…あぁっ!」
耳から手も離れるっつぅの。
「亜美?何やってんの!大丈夫っ!?」
亜美の口からお茶のミストが吹き出したのだ!あたしは、ティッシュをスカートのポケットから取り出してテーブルを拭く。涙目になって咳き込む亜美さん…。
「くほっ…えほっ…そんなことより…」
そんなことよりも何も、食堂にいる生徒たちは全員!あたしたちをガン見している。視線刺さってる。肩身が狭い。本当に穴あくから…。