『クレイジー・ジャンヌ・ダルク』-4
…二日後彼は、死刑となった。
今日、自分が処刑されると知らされた番号163は、ただ黙って大きな十字架を撫でていた。
「何か、言いたい事は?」
十字型の台に乗せられる前に、私と数人の役員にそう聞かれ、彼は静かに私を見据えて言った。
「…どうかこの青年に、神のご加護を。」
久しぶりに聞いたその言葉は、静かに私の心へ入ってきた。
十字型の台に仰向けになり、致死量の薬品を注入される。
程なくして、ジョン・マザーズは息を引き取った。
私は彼の服のポケットに、以前渡した小さな十字架を入れた。
十字架に掛けられて焼かれた聖なる少女。
十字の台に横になって処刑された殺人犯。
全く違う二人だ。
一緒に考えるつもりは、毛頭ない。
しかし私には、ジョン・マザーズを裁く事など出来ない。
誰も、彼を裁く事は出来ない。
故に彼を裁くのは、神であると私は信じる。
彼の償いの心は、神に届いたのだろうか。
今もこの刑務所には、彼が撫でたあの大きな十字架がある。
償いの気持ちがある者に貸し出すために置かれているそれを、今日も私は見つめる。
私に、神のご加護があるようにと言ってくれた一人の男の死を、忘れないために。