安倍川貴菜子の日常(3)-6
「はじめましてサンタさん。ボクの名前はチョコでし。よろしくね」
「な…お前、使い魔なのか!?」
「はいでし。チョコはキナちゃんの使い魔でしよ」
驚く護とは別に鞄の中で騒ぎを聞いていたエドが護の鞄を開けるとひょっこり顔を出してきた。
「ふーん、珍しいな。お前さん、ディアナの妖精か」
「そうでし。チョコはディアナの妖精でしけど今はキナちゃんの使い魔でしよ」
エドが珍しそうにチョコを眺めていると、チョコは貴菜子の膝から護の鞄の傍まで飛び跳ねる様に移動してエドの顔をまじまじと見つめるのだった。
「な、何だよ。俺の顔に何か付いてるってのか?」
チョコにじーっと見られてエドは居心地の悪そうな顔をするとチョコはにっこり笑ってエドに話しかけた。
「ん〜、エドさんはクリスさんよりクラスが低いんでしね」
今日、始めて会った相手にいきなりプライドを傷つけられる様な言葉をかけられエドの表情は見る見るうちに怒りに変わり、それと同時に鞄から飛び出すとエドはチョコに詰め寄った。
「て、てめぇ、俺とあんな堅物トナカイを比べんなっ!てか、なんでお前がクリスと俺のクラスを知ってるんだよ!」
「ちょ、チョコは使い魔さんを見ただけで能力や力のランクが分かっちゃうんでしよぉ」
「分かってもそんな事を口にすんなっての。事実だけに俺のクリスタルガラスの様に繊細なハートは傷ついたぜ」
怒りに任せて喚き散らすエドにひたすらおろおろするチョコを見て苦笑する護はエドを摘み上げると鼻先を指で弾いた。
「いてーよ護っち!何すんだよ」
「エド、お前も大人気ないぞ。本当の事を言われたからって何キレてんだよ」
「だってよ、こいつが言った事はサンタの使い魔って崇高な使命を負った俺に対する挑発だぜ」
護の目の前にぶら下げられたエドがチョコを指差し必死に抗議していると、チョコの主人である貴菜子がエドに謝ってきた。
「エドくん、ごめんね。チョコちゃんも悪気があって言ったんじゃないから許してくれないかな?」
両手を合わせ苦笑混じりに謝る貴菜子を見てエドは一瞬固まると、次の瞬間には顔をだらしなく緩ませて騒ぎ始めるのだった。
「あーもー気にしない!俺、全っ然気にしてないよ。こんな可愛い子に許しを乞われちゃったら俺いっくらでも許しちゃうよ。使い魔にだって間違いや○○○イくらいあるってもんですよ。あ、そだ、ところでお嬢さん、よろしければご一緒にお茶など如何ですか?俺としてはお嬢さんと一緒にお茶をしながら愛を語り合いたいなーなんて思うのですよ。それでお嬢さんのお名前は?」
貴菜子を見た途端、急に口説きだしたエドを唖然と見つめる貴菜子と恥も外聞もないエドの行動に顔を引きつらせエドを摘んでいる手を振るわせる護。
そして護はエドを摘んだ手を大きく振りかぶり、鬼の様な形相でエドを思いっきり地面に叩きつけたのだ。
「少しは主人の恥を考えろ!こんの色ボケ使い魔がぁぁ!!」
護は地面に叩きつけられたエドを幾度となく踏みつけるとエドは断末魔の様な叫びを上げるのだった。
「安倍川、それにチョコちゃんだっけ、うちの極バカ使い魔が迷惑をかけたな。本当にすまなかった…」
地面と護の足の間に挟まれたエドを肩で息をしながら睨んでいる護が貴菜子達に謝ると貴菜子は苦笑いをしながら「気にしてないから」と言い手をブンブンと振って答えた。
「ところで安倍川は俺の爺さんからなんて言われたんだ?」
護の素朴な疑問に貴菜子は護の祖父である幸一郎との話を教え、幸一郎から護の事を助けてやって欲しいと言われ力の一部を分けてもらった事を話した。
「はあ、全くあの爺さんは何を考えてるんだか…」
再び貴菜子の隣に座った護は頭をガシガシと掻きながらため息をつくとその様子を見ていた貴菜子が柔らかい笑みを見せて護を見た。