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安倍川貴菜子の日常
【コメディ 恋愛小説】

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安倍川貴菜子の日常(3)-5

「まあ、帰っちゃったものはしょうがないか。また今度にしましょう。でも、神野くんは冬休みまでに大まかで良いから進路希望を決めておいてね」
「はい、わかりました。でも、俺は貧乏ですから進学しない可能性が高いですよ…」
護は京香から視線を逸らすと申し訳なさそうに言うのだったが、京香は成績表と護の態度を交互に見てため息をついたのだった。
「神野くんの成績は優秀だからうちの学院の上の方から是非とも欲しいって言われてるんだけどね〜」
「そう言って貰えるのは嬉しいですけど、今の俺は両親の遺産を食い潰して生活してるんです。生活費や学費等を計算してもここを卒業するまでで精一杯なんですよ。そうでなくてもうちの学院って学費が高いじゃないですか」
護は京香にそう説明したのだが、両親の遺した遺産の話をして正直欝になりそうだった。
そんな心境の変化が護の顔に出ていたのか、京香がその事に素早く察知すると慌てて謝った。
「ごめんね、神野くん。嫌な事を思い出させちゃったわね」
「……いえ、そんな事ないですよ…」
京香の気遣いに護は笑顔を見せるのだが、京香には護の笑顔がとても痛々しく映るのだった。
「ふぅ…神野くんって変なところで大人っていうか強いのよねぇ。男の子だからかしら?」
頬杖をつきながら護を見る京香は少し困った様な顔を見せた。
「男だからとかは関係ないと思いますよ。俺はガキだし頼れる人が近くに居ないから必要に迫られて全てを自分で考えて行動してるだけです」
「頼れる人がいないって訳じゃないでしょ?別に先生に頼ったって問題ないわよ。それとも先生じゃ頼りない?」
「……そんな事ないです。でも、俺って弱いから一度人に頼るとそのまま依存しそうで怖いんです…」
護が下を向きぽつりと呟きそのまま押し黙ると京香は椅子から立ち上がり、護の背後に回るとそっと優しく抱きしめたのだった。
「せ、先生…?」
「今まで我慢して頑張ってきたんだね…。今だけは我慢しなくて良いのよ。この事は先生も見なかった事にしてあげるから…」
京香の言葉から暫く無言の時間が続き、そして護の心に張り詰めていた糸が切れたのか瞳から涙が零れ護を抱きしめていた京香の手に落ちると、護は声を殺しながら泣いたのだった。
「ごめん…先生、ごめん……」
「私の事は気にしなくて良いから今は素直に泣きなさい」
京香はそう言いながら護の頭を撫でてあげた。
その感触は護にとって今は亡き母親の優しさを思い出させるものであり、それと同時に心の中が暖かくなるのを感じるのだった。
それから暫くして護は進路指導室を後にすると近くの水道で顔を洗い、軽く頬を叩くといつもの護に戻り自分の教室に戻っていった。

護が進路指導室から戻ってから午後の授業が始まり、圭吾が居眠りをして数学の教師から大目玉をくらい大量の宿題を与えられた事以外は特に変わった事もなくそのまま放課後になると護は鞄を持ち教室を出ようとした時、思いもかけない人物から声をかけられた。
「神野くん、時間ちょっといいかな?」
それは若菜の友達の安倍川貴菜子だった。
「ああ、別に急ぎの用事はないからいいよ」
「よかった。じゃあ、ちょっと付き合って」
護が気のない返事をしたにも拘らず貴菜子は笑顔で護を手招きをして二人は学校を後にした。
鶴ヶ峰学院を離れて暫く歩いた二人は人気のない公園のベンチに座っていた。
「ねえ、神野くん。単刀直入に聞くけど神野くんってサンタさんなんでしょ」
貴菜子のいきなりの言葉に護の表情は凍りつき人に今まで見せた事のないくらいの動揺を見せてしまった。
「あ、安倍川…何でそれを……」
「この間ね神野くんのお爺さんに聞いたの。それから、私も神野くんと似た様な存在なんだって」
慌てふためく護を他所に貴菜子は自分の鞄からピンク色をしたウサギのぬいぐるみを取り出すと自分の膝の上に置いた。
するとウサギのぬいぐるみはぴょこっと立ち上がり護を見上げるとお辞儀をしたのだった。


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